急に騒がしくなったお茶屋はほんの十分足らずで静かになっていた。

というのも北原さんと南さんはお昼休憩の時間が終り、其々の職場に戻って行ったからだ。

「ご馳走様でした」

完食したお皿を前に両手を合わせて挨拶する東藤さんに癒された。

(ああいう些細な事されると嬉しいな)

昨日も思ったけれど、食べる時の所作も綺麗だし、食べ始めと終わりの挨拶が自然と出る処も好感が持てた。

「あの」
「っ、はい」

余所事を考えてボーッとしてしまっていた頭に東藤さんの声が響いた。

「珈琲をいただけませんか?」
「…コーヒー…ですか」

受けた注文に少し戸惑った。

そんな私の様子に気が付いた東藤さんは焦った表情を見せながら弁解した。

「あの、昨日のアレは…本当忘れてください!」
「…アレ」
「其の…折角淹れてくれた珈琲を…ま…不味い…とか云ってしまった暴言です」
「…」
「あの時は本当…十喜代さんの珈琲が飲めるという期待値があったために…其の、そういう気持ちで飲んでしまったためについ出てしまった言葉であって…」
「…」
「そうと思わなければ…君の珈琲だと思って飲めばあんな暴言、吐いたりしなかった」
「…」
「……ので…お願いします。飲ませてください」
「……プッ」
「へ?」

思わず吹き出してしまった。

「あ、はははっ」
「…なんで笑って…」
「す、すみません、笑ってしまって。不味いって云われて落ち込んでいたのは私なのに…でも云った本人の東藤さんも気にしていたんだと思ったら…」
「…」
「必死に弁解しているのが其の…東藤さんの見た目のイメージから想像出来なくて…」
「…」
「必死になってくださってありがとうございます。もう気にしていませんから」
「…そう」

少し血色のよくなった顔をして東藤さんはフイッと窓の方を向いてしまった。

(ひょっとして…照れている?)

出逢ってからまだ二日しか経っていないからこの東藤さんという人の事は何も解っていなかったけれど

(でも性格がいいって事は解った)

そんな思いに気持ちが軽くなり、私は意気揚々とコーヒーを淹れたのだった。


「そういえば、飲み会だどうとか云っていたな」
「え」

淹れたコーヒーを飲みながら、東藤さんが思い出したように呟いた。

「明日、北原たちと飲みに行くんですか」
「えぇ、なんか歓迎会をしてくれるとか何とかで…」
「…」
「おふたりとも親切ですよね。私なんかのために歓迎会をしてくれるなんて」
「本当の意味での親切──かどうかは解りませんけどね」
「え?」
「下心ありきの親切でしょう。君、若くて可愛いから」
「……へ」

突然云われた若くて可愛いという言葉にドキンとした。

だけど

「この辺には若い娘が少ないからね、美醜問わず未婚の女性が町に居付けば若い連中は早い者勝ちみたいな処があるから。精々気を付けなさい」
「…はぁ」

(なんだか東藤さん、云い方がおじさんくさい)

「女性というだけでモテてしまう風潮がありますから、君も貞操観念はしっかり持って冷静な目で男を観察する事」
「…あの」
「ん?」
「東藤さんもそういう風潮に乗ってしまう様な年齢ではないのですか?」

ちょっとした悪戯心で云ってみた言葉に東藤さんは大して表情を変えずに

「俺はもう年寄りだから。其れに女性の事に関しては飽食気味なので廉い風潮には乗りません」
「…飽食」

其れを訊いた途端カァと顔が赤らんだような気がした。

(す、凄い…!もう食べ飽きたって…というか不自由していないって事?!)

其の言葉を裏付ける容姿を持つ人が云う言葉だから余計に其の威力は絶大だった。

(だから余計に生々しいっ!)

私はひとり心の中でリアルモテ男の存在にざわついていたのだった。

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