『だって紅実、中学…ううん、ひょっとしたら小学生の時から十六澤くんの事、気にしていたもん』

南の其の発言に思考が止まったままの俺。

(何云ってんの…こいつ)

俺をからかうのもいい加減にしろと云いたくなる気持ちを何とか抑えていると

「まぁ、紅実自身気が付いていなかったかも知れないけれどね、解り易い子なのよ~実に」
「…」
「紅実が自覚していないんだから当然十六澤くんも小路くんも気が付いていなかったでしょうけれど」
「…」
「でもね、わたしは解っていたの。紅実にとって小路くんに感じていた気持ちと十六澤くんに持っていた気持ちは全然違う思慕だったんだって」
「…」
「だからわたし、紅実と仲良く出来たのよ」

そうにっこりと微笑まれた南に反論する事が出来なかった。

「…おまえさ、其れだけ洞察力があるのになんで彼氏いない訳?」

辛うじて出て来た言葉を厭味を込めて云ってみても、其れでも南は飄々とした態度は崩さなかった。

「大きなお世話よ。わたしは小路くん一筋なんだから。他の男に構う暇はないの」
「陽生が南に振り向く事がないとしてもか?」
「そんな事解らないじゃない。わたしだって小路くんに見合う様な女になろうと努力して来たんだから」
「…」

そう、南はアメリカに行った陽生に習って、看護学校に通ったり英語を学んだりしていた。

この春、看護師の国家試験に合格し晴れて看護師として働いている。

「とまぁ、わたしの事はいいとして──紅実よね…」

話が逸れた原因の本人が軌道修正をする。

「とりあえず紅実に会ってもいいかな」
「今日か?」
「うん、休み、今日だけなんだよね。しばらく夜勤とか入ってて時間取れなそうだから」
「貴重な休みに悪いな」
「いいよ、紅実の事だもん」
「…」

南のこういうサバサバした性格はありがたいと思った。

変に冷めているというか、器が大きいというか。

(陽生に一筋とは勿体ない事だ)

報われない恋をしていると自覚がある分、其れでも南には幸せになってもらいたいと願わずにはいられなかった。


(とりあえず味方をひとり確保したな)

南と別れてから会社に戻る道すがら、これからの展望に想いを馳せる。

(其れにしても…こういのは結構堪えるな)

紅実と結婚してから毎日のようにあった行為が出来ないという不幸。

男というのは浅ましいなと自己嫌悪をしつつも、どうしたって惚れた女に触れられない苦しさは俺から正常な思考や紳士的な態度を削ぎ落して行きそうだと怖くなった。

(くそ、本当にムカつく、陽生の奴)

尤も俺をこういった精神状態に追い込ませるのが奴の復讐の一端だとしたら、其れは既に陽生の思惑通りに成功しているのだった。

(…紅実)

携帯の待ち受けにされている笑顔の紅実を見つめる。

我ながららしくない、浮かれ過ぎていると思いながらも紅実に関する事ではいつまで経っても子どもっぽい独占欲にまみれてしまっている俺。

(早く…早く思い出してくれ…)


『だって紅実、中学…ううん、ひょっとしたら小学生の時から十六澤くんの事、気にしていたもん』


今の俺の唯一の心のよりどころは、南から訊かされた何の確信もない言葉だけだった。

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