『私…なるべく努力する、から』

『早く…あんたとの事を思い出せるように…だ、だから』

『あんたの方こそ私を…わ、私を…放さないでよ』 


(…はぁ、本当に参る!)

陽生の陰謀で紅実の精神が中学生に戻されたと知った時は絶望感しかなかった。

陽生に紅実を渡せば元に戻るという解決策は端から受け入れる事は出来ず、もうひとつの解決法も今の紅実を相手には容易い事ではなかった。

唯一救いだったのが、どうやら紅実の精神は中学生とはいえ、かなり後半のものじゃないかという予想だ。

昨夜の紅実とのやり取りはあの夏の…

いがみ合ってばかりいた俺たちの距離がほんの少し縮まりつつあったあの中3の夏の頃の精神状態じゃないかと思われた。

(あのやり取り…妙に懐かしかったんだよなぁ)

恋愛関係になる少し前の、もどかしいやり取りが妙な甘酸っぱさとなって俺を過去へと誘(イザナ)った。


「なにニヤニヤしているの?」
「!」

ふいに掛けられた声に驚き思わず体がビクついてしまった。

「十六澤くん、傍から見たら変な人だよ」
「し、失礼な云い方だな、変じゃない」
「もう、人を呼び出しておいて噛みつかないの」
「…」

俺の目の前に座った南有紗は注文を訊きに来た店員に「日替わりランチを」と告げた。

「で?何よ、昼間に会いたいなんて連絡して来て。早速浮気ですか?」
「違う。浮気なんてするか、阿呆」
「まぁ、そうだよね。十六澤くん、ずっと紅実一筋だったもんね」
「そういう話はいい」
「ははっ、照れてる──で?新妻はお元気?」
「…」
「何よ、なんで其処で黙っちゃうの?って、もしかしてもうおめでた発覚?」
「っ、違う!まだだ、変な事を云うな!」
「だからぁ、十六澤くんがサッサと本題を切り出さないから変な憶測しちゃうの。で、何よ、話って」
「…紅実の事だけど」
「うん」
「実は──」


出来れば俺ひとりで解決出来たらいいと思った。

紅実が早々に俺を受け入れてくれて、中学生の精神のままでも俺に体を拓かせてくれれば元に戻るというごく単純な話だ。

だけどそんな楽観視をしていていいのかと不安にもなった。

俺がいいと判断して抱いたとしても、紅実の本当の気持ちは俺には解らない。

仮に紅実が「抱いて」と言葉にして云ったとしても、其の言葉通り、紅実が俺に全てを委ねてくれているのか見当がつかない。

(考えれば考えるほど難解になる)

流石頭の切れる陽生の策略だ。

迂闊に手を出せば紅実は陽生のものになってしまう。

(其れだけは絶対に赦さない!)

紅実を陽生になんかやれる訳がない。

例え今の紅実が陽生を望んだとしても俺は──


(渡せる訳ないだろうが!)



「…そっか…やっぱりそうだったんだ」
「…」

紅実の親友の南有紗に全てを話した。

南がずっと陽生の事を好きだという事を知っていながらも全てを打ち明けた。

「まぁ、ね。解っていたよ。小路くんが紅実の事を好きだったって事は」
「知っていたのか?」
「そりゃ解るよ。だってわたし、ずっと小路くんを見て来たんだから」
「…」
「だから紅実の事、羨ましい、妬ましいって思っていた時があった」
「…」
「でも…そう思いきれなかったのは紅実には十六澤くんがいたからなんだよね」
「え」
「だって紅実、中学…ううん、ひょっとしたら小学生の時から十六澤くんの事、気にしていたもん」
「…は?」

南の其の発言は俺をしばし思考停止にする程の威力があった。

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