十六澤が作ってくれた朝食をモソモソと口に運ぶ。 

(十六澤って料理上手いんだな)

そんな事を考えていると

「紅実、俺今日から仕事に行くから」
「え」

(そういえば就職しているって云ってたっけ)

「紅実の会社にはしばらく休みますって連絡しておいたから」
「あ、そうなんだ」
「うん、だから家でゆっくりしていろよ」
「…解った」

(なんだか…本当に大人だな…十六澤)

仕事に行くと云ったり、休みの連絡を入れたり…

中学生の十六澤じゃ考えられない事ばかりだ。

「あ、其れと」
「ん?」
「もし、仮に紅実や俺の両親から連絡があっても記憶を失くした事、云わないで。変に心配かけたくないから」
「あ…そうだね…うん、解った」
「…なんか、無理云ってるかも知れないけど…ごめん」
「なんで十六澤が謝るの?元はといえば私のドジでこうなったんだから」
「…」
「十六澤?」
「…あのさ、出来れば…名前で呼んで欲しい…かな」
「え」
「…ダメ?」
「~~~」

(な、名前…名前って…)

そりゃ結婚しているんだから名前呼びなんて当たり前だったかもしれないけれど…

(けど…けど…)

「…ごめん、無理強いしないから。出来ればって思っただけだから」
「…」
「呼びたくなったら呼んで欲しい」
「~~~ぅん…解った」

たかが名前呼びをお願いされただけで何をこんなに照れているのか解らなかった。

(でも…すっごく恥ずかしいんだもん)

十六澤の気持ちを思えば呼んであげる事が望ましいのだろうけれど、其れをすんなり出来るほど私は大人ではない訳で──

(体ばっかり大人なの…苦しいよ)

私は十六澤に気づかれないようにそっとため息を漏らしたのだった。



朝食を終え、十六澤は出勤して行った。

ひとり残された私は急に静かになった家に少しだけ恐怖感を覚えていた。

(知らない家だからな…戸惑っちゃう)

結婚して家を出た私。

おいそれと実家に帰る事は難しいのだろうと思った。

「…とりあえず探検してみるか」

私は昨日見る事の出来なかった家中の部屋をひとつひとつ見て回る事にした。

キッチンに入ると住んでいた家とは違う仕様に目新しさを感じた。

「え、これ食器洗浄機?凄い…なんか贅沢」

備え付けてあるものがピカピカで如何にも新婚生活感を浮き彫りにしていた。

続いて冷蔵庫を開けると

「うわ、何このタッパーの山」

中には無数のタッパーが整然と並べられていて、其の中には様々な食材が入っていた。

「日付けとか書いてある…これ、私の字かな」

ひとつひとつに日付けと中身のメモが貼り付けられていた。

「凄い…大人の私、マメだなぁ」

そういえば共働きと云っていた。

仕事と家事の両立を頑張ろうとしていたのだろうかとふと思ってしまった。

「…なんだかなぁ」

家中に私の痕跡が窺えるのだけれど、其のどれも覚えがないというのは結構辛いなと思ってしまうのだった。

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