私の中に眠る酷く後悔した気持ち。

其れはいつ、何処でもたらされたものかは今は解らない。

でも何となく解った。

(今度こそ、絶対に彼を突き放さない)

そんな気持ちだけはしっかり私の心の中に居座っていたのだった。


「…あの…十六澤」
「ん」
「私…なるべく努力する、から」
「え」
「早く…あんたとの事を思い出せるように…だ、だから」
「…」
「あんたの方こそ私を…わ、私を…放さないでよ」
「っ!」

頑張って吐き出した気持ちを受けて彼はみるみる顔を赤らめて行った。

「…へ?」
「お、おまえ…記憶がなくても其れ、かよっ」
「…」
「はぁ…参る…本当に参るっ」
「…」

(私、やっぱり知っている)

目の前で盛大に照れているこの人を──

中学生の時と変わらない仕草をみつけた瞬間、私の中に湧き上がる甘い気持ちが不安だった気持ちを緩和させた。

(…うん、大丈夫)

大人の十六澤との事は全然思い出せないけれど、其れでも大人になった十六澤と過ごす事に厭とか嫌悪感とか、そういった気持ちがなくなったのは良かったなと思ったのだった。



訳の解らない一夜を経て翌日──


「おはよう、紅実」
「…はぁ」

朝、目が覚めてリビングにいた十六澤を見てため息をついた。

「何、朝から人の顔見てため息なんて」
「…いや、一晩寝たら元に戻っていないかなぁと思っていたんだけど…そう簡単な事じゃなかったみたいだなぁと」
「…」

記憶喪失──とまでは行かないのかも知れないけれど、一部分の記憶がなくなっているだけだからひょっとしたら一晩寝たら戻っているのかも知れないという期待は多少なりあった。

でもそんな期待は朝起きて、大人の体のままの自分に驚いた事によって儚く消え去った。

「う~ん…なんだろう、漫画とかではもう一度頭を打ったりしたら元に戻るってパターンがあるんだけど」
「ダメだ、そんな事をしたら!」
「!」

いきなり声を荒げた十六澤にビクッとした。

「絶対にそんな事をしたらダメだからね。下手したらもっと悪くなってしまう可能性だってある」
「し、しないよ…痛いの、厭だもん」
「…そっか、よかった」
「っ」

十六澤が浮かべた安堵の表情を見て、また胸が高鳴った。

(ちょ…な、なんなのよ私の胸!ドキドキし過ぎっ!)

十六澤の一挙手一投足に感情を揺さぶられている私が信じられなかった。

記憶にはない、体や感情が十六澤を忘れていないのだといちいち思い知らされているようで、其の度に私はもどかしくなるのだった。

ままごとマリッジ
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