気が付けば窓から見えるのは漆黒の闇だった。

あれから随分時間が経ったのだと解った。

「ほら、アイスレモンティー」
「あ…ありがとう」

私の好きな飲み物を好きな加減で出してくれる彼の顔をジッと見つめる。

「ん、どうした」

ベッドの縁に座っていた私の隣にごく自然に腰を下ろした彼が顔を覗き込むように見つめた。

(っ!)

其れと同時に私の胸はドキドキと高鳴りを増した。

(ちょ、ちょっと…冗談じゃないわよっ)

こんなおかしな事があっていいのだろうか?!


──私は先刻彼から訊いた事の次第を反芻して顔を赤らめた


私はあの十六澤と中3の秋から交際を始め、そして同じ高校、大学へ進学して卒業して其々就職してから一年後──

(つい数日前にけ…け、結婚、しただなんてっ!!)

話だけ訊いていると俄かに信じられない事も、携帯のメールやLINEのやり取りの記録や写真、動画など様々な物的証拠を見せられては流石に信じない訳にはいかなかった。

そうして十六澤と結婚した私は、家の中の掃除中に階段から滑り落ちて頭を打ったらしくて一時的に記憶が抜けてしまっているという事らしい。

(本当に信じられない…私が十六澤と…なんて)

私の中の記憶にある十六澤は中3の…

夏の日の真っ黒に日焼けした十六澤で…

(…こんな…こんな)

横に座る十六澤の顔をまじまじと見つめる。

そんな私の視線を感じた十六澤も私の方に顔を向けジッと私を見つめた。

(…大人になった十六澤って…こんな風になるんだ)

記憶にある十六澤よりうんと大人びいて面長になった輪郭。

でも精悍な顔つきは変わっていなくて寧ろ──

(~~~はぅっ!な、なんで胸がドキドキしてるの!)

其の格好良さに胸が張り裂けそうに甘く痛んだ。

「…何を考えて百面相してるの?」
「!」
「何か…思い出した?俺との事」
「~~~っ」

(いやぁぁぁぁ──!十六澤が優しいぃぃぃ──!!)

先刻から何処かむず痒い感じがあったのはこの十六澤の妙に優しく柔らかな物云いだった。

(信じられない!あの十六澤がこんな風に云うなんて!)

どうやら大人になった十六澤は私に対して優しく接していたらしいと解った。

(ま、まぁ…私が十六澤とけ、結婚、したくらいなんだから…其処に至るまでに何かがあったんだろうけど)

「…」

其の過程が思い出せないのが歯痒かった。
 
(私…なんで十六澤と付き合ったんだろう…)

抜けてしまっている記憶の、大事な処が思い出せなくてモヤモヤする。

「無理して思い出そうとしなくていいからな」
「え」
「無理して思い出そうとすると頭が痛くなるって医者も云っていたから…だから無理しないで」
「…」
「一緒に生活していればいつか思い出すかもしれないから、だから…」
「…」
「…俺を…怖がらないで欲しい」
「…!」

『…俺を…怖がらないで欲しい』といった顔がいつか何処かで見た表情と重なってズキッと胸が痛んだ。

(この感じ…知っている)

いつか感じた事のある盛大な後悔の気持ちにとても似ていて、私は無意識に彼の手を握り締めていたのだった。

ままごとマリッジ
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