『…失せろ』 

『人の後を尾行する様な女の名前なんか其れで充分だ』

『おまえになんか教えるかよ』


嫌い



嫌い



嫌い



(十六澤なんて…大っ嫌い───!!)



「はっ!」

酸素を求めるように喘いだ自分の荒い息遣いで目が覚めた。

「っ…は…はぁ…はぁ…」

息苦しさを解消するために何度も息を吸ったり吐いたりを繰り返す。

(厭な夢…見ちゃった…)

此処しばらくは見ていなかった夢だった。

今年から同じクラスになり席が隣同士になってから話す機会が増えた天敵の十六澤。

相変わらず口を開けば厭味ばかり云って腹が立つ。

…でも

(いきなり背が高くなって…仕草とか声とか…まるで大人の男の人みたいな…)


「紅実、大丈夫か?!」
「!」

考え事をしていた私の耳に入って来た低い声に驚き、と同時にドキッとした。

「…紅実」
「……ぁ」

寝かされていたベッドの淵に心配そうな顔をして膝をついているのは知らない男の人。

…ううん、知らなくは…ない。

(この人は…先刻)

『……十六澤朔』

そう名乗った。

「具合はどうだ?何処か痛い処とか気持ちが悪い処とか…」
「…」
「あ、水、水飲むか?ほら、これ飲め」
「…!」

そう云って私の目の前に差し出されたペットボトルの水。

其れを私に差し出した時の男の人の顔に私は見覚えがあった。


『ほら、これ飲め』

『水分補給して少し此処で座っていろ』

『此処、穴場のベンチだぜ。樹の葉っぱが日光遮って時々風が通り抜けるからな』


(これって…あの時と同じ…)

「…十六澤…?」
「!」
「あんた…本当に…十六澤…なの?」
「~~~あ…あぁ、そうだ」
「っ!」

いきなり私の体を彼が抱きしめた。

「ちょ…!な、何をっ」
「紅実…紅実、紅実、紅実っ!」
「~~~」

ギュウッと強く抱きしめながら私の名前を連呼する十六澤に酷く困惑する。

(な、なんで十六澤が私をだ、抱きしめて…!)

全然解らない状況だ。

何故か大人の体になっている私と十六澤。

いがみ合っていた私たちが何故今一緒にいるのか。

「痛っ!」
「! 紅実、大丈夫か?!」
「…考えようとすると…頭が痛んで…」
「…」
「一体何がどうなっているのか解らなくて…気持ち悪いよぉ」

思わず涙ぐんだ私を十六澤はまた抱きしめた。

だけど今度はやんわりと…

優しく包み込むような抱擁で、何故か私は其の感触に安心感を抱いてしまったのだった。

ままごとマリッジ
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