心の中の黒いものを曝け出した彼と付き合い始めてから一ヶ月が過ぎようとしていた。

其の日もいつも通り仕事終わりに彼のお店に寄っていた私は何気なく愚痴を漏らした。

「はぁ…憂鬱だなぁ」
「どうしたの、なんだか元気がないね」

閉店間際の店内にはカップルが一組とサラリーマンらしき男性がひとりいるだけだった。

カウンター席のいつもの特等席に座っている私の話に耳を傾けながら彼は洗い物をしていた。

「もうすぐお盆休みでしょう?」
「あぁ、そういえばそうだね。俺には関係のない話だけど」
「やっぱり悠真くんはお盆休みとか関係ないんだよね」
「特に取っていないよ。休んでもやる事ないし」
「…だよねぇ」

其れを訊いて益々ため息が出た。

「何、先刻から。何をそんなに悩んでいるの」
「…」
「俺には話せない事?」
「…そんな事は…ないけど…」
「歯切れが悪いな──云いたくなるようにお仕置きしようか?」
「っ!」

一瞬暗い色をした瞳が鈍く光った彼の剣呑な雰囲気にゾクッとした。

「なぁんてね」
「~~~っ」

(怖っ…!)

今ではもう慣れただろうと思っていた時々出る彼の黒いオーラ。

でもそんな彼も好きだったから優しくされない行為でも甘んじて受け入れられて来た。

(でも不意打ちはまだちょっと慣れていないかも)

そんな事を考えていると、もう一度彼は私に訊いて来た。

「で?何を悩んでいるの」
「…あのね、お盆休み…実家に帰らなくっちゃいけなくて…」

観念した私は正直に話す事にした。

「実家…って何処だっけ」
「県内なんだけど…乗り換えなしの電車で40分」
「近いじゃない」
「うん…其れはそうなんだけど…」
「帰りたくない理由があるの?」
「…」
「俺と離れるのが寂しいとか?」
「あ、其れは勿論ある」
「本当?嬉しいな」
「…でも…其れだけじゃなくて」
「…」
「…帰ったら…お見合いさせられるの」
「───は?」

そう、いきなりこんな話になったのは昨夜の実家からの電話でだった。




「はぁ?お見合い?!」

『そうなの、美兎も30でしょう?立派な行き遅れじゃない』

「まだ29!」

『四捨五入したら30でしょう。でね、孫の顔もそろそろ見たいからお父さんがいい人を見繕って用意したのよ』

「何勝手な事を…結婚なんて私がちゃんと自分で決めてするわよ」

『そんな事ばっかり云ってもう30でしょう。いい加減あなたの言葉は信用なりません。いいから今度のお盆休み、絶対に帰っていらっしゃい』

「だからまだ29だって──っていうか、本当厭だから!絶対帰らないし見合いなんてしない」

『…あぁ、そう。美兎が其の気ならお相手とあなたの会社に乗り込んで行ってもいいんですからね』

「?! な…何娘脅迫して」

『そうでもしないとあなた逃げるんですもの。いいわね、帰って来るのよ』

「~~~わ、解ったわよっ」



「──という訳で…帰る羽目になったんだけど」
「なんで俺と付き合っている事云わないの」
「…へ」

私の話を黙って訊いていた彼は平然とそう云った。

「付き合っている彼がいるから見合いなんてしないって云えばよかったのに」
「…だって…そんな事云ったら絶対会わせろって云うよ」
「会せればいいじゃない」
「…」
「何、どうして其処で黙るの」
「…悠真くんは…いいの?」
「何が」
「うちの両親に…会ってくれるの?」
「うん」
「云っている意味、解っている?この流れだと悠真くん、私と結婚を考えているって相手になるんだよ?」
「あれ、美兎ちゃんはそう思ってくれないの?」
「?!」

(な…何…この急展開っ)

私の零した愚痴から思わぬ事態に転がり始めてしまっていた。

SOULAGER
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