「しかし…就職して一年にも満たないというのに結婚なんてして大丈夫なの?」
「別にいつしたっていいだろう?家庭と仕事、両立すればいいだけの話だし」
「そんな事云って紅実にばかり負担をかけているんじゃないだろうね」
「かけてない、俺だって家事とかやっているし」
「朔が?今だけなんじゃないの?其の内初心を忘れて紅実におんぶに抱っこって事になるかも」
「おまえなぁ…俺だっていつまでもガキのままじゃないんだからな」

「…」

(なんだろう…先刻から感じるこの違和感)

朔と会話している陽生ちゃんの雰囲気が昔とは少し違っている気がする。

勿論喋り方や接し方は昔と変わらず優しくて穏やかな感じなのだけれど…

(? 気のせいかな)

久し振りに逢って感覚が麻痺しているのかも知れないと思い、私もふたりの会話に加わったのだった。



「え、とんぼ返りなの?」
「東京にね。済ませないといけない用事があってしばらく滞在するけれど、其れからまた渡米するよ」
「…忙しいんだね、陽生ちゃん」
「まぁ、好きで学んでいるからね。もう後数年したら正式に帰国するつもりだよ」
「本当?そうしたらまた近所に住むの?」
「其れは…どうかな。雇ってくれる病院の場所次第なんだろうけど」
「陽生ちゃんなら何処だって大丈夫だよ」
「紅実は相変わらずだなぁ」

話している内に段々陽生ちゃんに慣れていって、昔みたいに気軽に話せている私がいた。

「そうだ、晩ご飯食べていかない?腕を揮うから」
「紅実が?其れは嬉しいな…だけど新幹線の時間があってね」
「え、そうなの?」

陽生ちゃんの言葉にガッカリしている私がいた。

「何あからさまにガッカリしているんだよ」
「痛っ」

傍にいた朔に拳でコツンと腕を小突かれた。

「朔、あんまり紅実を苛めないでよ」
「はぁ?苛めてなんていない。俺はいつも優しくしている」
「どうかな、朔の優しさは朔自身の基準だからな」
「…」

(あ…また)

 薄くなっていた違和感がまたムクムクと浮上して来た。

其の違和感の正体は相変わらずよく解らなかったけれど、どうも厭な感じで胸にちいさく鎮座していた。

そんな気持ちを抱いたまま、陽生ちゃんが帰る時間になった。

玄関先まで来てハッと思い出した。

「そういえば…朔、あれ持って来て」
「は?あれって、何」
「ほら、陽生ちゃんに渡すって用意していたもの」
「……あぁ、あれ、か」
「寝室のキャビネットの一段目に入っているから」
「解った」

そういって朔は二階の寝室に向かうために階段を上がって行った。

其れを目で追っていると、不意に肩に温もりが感じられた。

(え)

視線をやると陽生ちゃんの掌が私の肩に置かれていた。

「どうしたの、陽生ちゃん」
「紅実…幸せ?」
「え」
「朔と結婚して──紅実は幸せかい?」
「…」

私の目を覗き込むように陽生ちゃんの顔が間近にあった。

「ねぇ、紅実」
「…うん…幸せ、だよ」

其の問い掛けに少し戸惑ったけれど、私は恥ずかしさを押し殺して素直に告げた。

「本当に幸せだと感じているのかい?」
「え」

だけど陽生ちゃんは何度も同じ事を訊いて来る。

「紅実は本当に朔の事が好きで結婚したのかい?」
「うん」
「紅実が本当に好きだったのは朔だったのかい?」
「…うん」

(陽生ちゃん、どうしてそんな事を訊くんだろう)

「ねぇ、本当に好きだった?紅実が好きだったのは朔で間違いないの?」
「………ぅん」

(あれ…何だろう…なんだか…)

何度も繰り返される陽生ちゃんの問い掛けが徐々に私の頭の中に重く響いて来て、私自身、なんて答えているのか訳が解らなくなって来てしまった。

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