一瞬陰った言守さんの顔がとても印象深く私の心に残った。 

でも直ぐに何でもないような表情に戻った言守さんが居を正し、一層真剣な様子で口を開いた。

「さて、此処からが本題です」
「は、はい」

つられて思わず私も居を正す。

「そういった特殊な家の跡取りは浄天眼の能力を損なわないように徹底的に管理されて育てられます。古式より伝わる数多くの掟によって代々言守家の当主となるべく作られるのです」
「掟…ですか」
「はい。まず跡取りとして生まれた子は両親と其の子に与えられた式と呼ばれる世話係数名としか接触を赦されません」
「式…って…あっ、先刻の男の人がそんな事を」
「はい、彼、蔦留は僕の式のひとりです。昔は式神といって人型紙に念を込められ実体化した付喪神が担っていましたが、現代となってからは専ら役職として式と名乗っているに過ぎません」
「普通の人間、なんですね?」
「そうです。あぁ、云っておきますが僕を含めた言守一族も勿論普通の人間ですよ。ただ持っている力が特殊なだけで、其の力を失くさないために色々制約があるというだけです」
「そう、なんですね」

(そっか…同じ人間、なんだよね)

話を訊いていて少し不安になっていたけれど、改めてそう云われてホッとした。

「話を続けますね。限られた人の中で成長する跡取りにはいくつかの約束事がありました。其のひとつが名前です」
「名前?」
「はい、両親から授けられた名前は両親以外、他の誰にも決して知られる事がありません」
「──え」
「名前には魂が込められます。其の名前を他人が安易に呼ぶ事で穢されないようにするための措置だと訊いています」
「…」
「ちなみに言守という家の名前も表向きのもので、本当の氏(ウジ)名ではありません」
「…ちょっと、待って」
「はい」
「名前…あなたの名前、私、教えてもらったんだけど」
「えぇ、教えました」
「其れって…」
「真名のやり取りと呼ばれる儀式のひとつです」
「まなのやりとり…?」
「伴侶として選んだ女性のみ真実の名前を告げ、相手の女性も名前を名乗る事により婚姻が可能になるのです」
「………へ?」

伴侶…?


婚姻…?


「えっ!何其れっ」
「詳しい事を告げずに勝手に真名のやり取りをした事はお詫びします。でもまだ半分だけです。僕はまだ真名の半分しかあなたに教えていません」
「へっ?!」
「しかしあなたは僕の伴侶確定なのでついでに氏名もお教えしましょう」
「ちょ、ちょっと待って!伴侶確定って…私とあなたはつい先刻、逢ったばかりでそんな──」
「僕が此処にいる事が証明です」
「は?」
「僕は視ました。運命の伴侶が何処にいるのかを」
「…」
「視てしまったから…逢いたくなったから蔦留の協力の元、社を抜け出したのです」
「やしろ?」
「はい、僕は成人の義を迎え伴侶となる女性と真名のやり取りを終えるまで屋敷の一角にある社と呼ばれる神殿から出る事が出来ないのです」
「えっ」
「未熟な状態で世俗の善くない気に当てられないようにという事で二十歳を迎えるまで一切外には出てはいけない掟になっているのです」
「?! 何…其れ」

(今時そんな軟禁状態みたいな事があるっていうの?!)

「おかしいと思いますよね。あり得ないと。でも其れがまかり通るのが言守家なのです」
「…」
「僕にとっても其れが日常で、そういった環境にいる事が当たり前だったんです」
「…」

(あぁ…だからちょっと浮世離れしていたんだ)

出逢ってからの数々の奇行に納得が行ってしまった。

「そして数日前、直に二十歳になる僕に両親から伴侶候補の女性を紹介されました」
「っていうか、言守さんって19歳なの?!年下?というか同い年?!」
「あ、はい。もう後数日で二十歳になります」
「…嘘」

(すっごく落ち着いていて大人びいているからうんと年上かと思っちゃった)

若干の驚きに頭を抱えた私に苦笑しながら言守さんは話を続けた。

「でも僕は、両親が薦める伴侶には何も感じられないのです。写真でしか観た事はありませんが、其れでももし本当の伴侶なら感じるものがあるはずなのです」
「…」
「運命の相手でもない女性と婚姻する事に戸惑っている最中、其れは突然視得(ミエ)たのです」
「何が」
「あなたですよ、古世美さん」
「…は?」
「淡い映像としてだったのでハッキリとしたものではなかったのですが、出逢うだろう場所だけは鮮明に解って…其の事を話して社から出してくれたのが蔦留でした」
「…」
「途中まで蔦留の気に護られ足を運びましたが、其の蔦留の護る気が邪魔をして正確な場所が特定出来なかった僕は蔦留と離れ、単独で行動しました」
「…」
「其の結果、余りの雑多な気に冒され、疲弊しきってようやく目的地に到達した時には力尽きで倒れてしまいました」
「だからあそこで行き倒れていたんですね」

またしても此処までの経緯が明確になり自然と息を吐いていた私だった。

古-イニシエロマンス-恋
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