私が作った食事を黙々と食べてくれた男性は、やがてそっと箸を置き

「ご馳走様でした」

と手を合わせ丁寧に挨拶した。

(凄い…3合炊いたご飯…全部食べちゃった)

私が茶碗1杯目のご飯を食べている間に男性はどんどんお替わりをして行き、やがてお釜にあったご飯は綺麗さっぱりなくなった。

(最初の発言を訊いた時は食べてくれないかも知れないと思っていたけれど)

そんな心配は一切不要で、男性はひと口食べた瞬間から綺麗な所作で黙々と食べてくれたのだった。

「はぁ…どうしよう…食べ過ぎました」
「…ですね」
「でも、ご飯が美味しいのですから仕方がありません。あの、あなたは職人の方なのでしょうか?」
「は?職人ってなんの」
「食事を作る事に長けた人でなければこんな美味な食事をあのような短時間で作る事は適わないでしょう」
「えーっと…普通ですから」
「え」
「普通にひとり暮らししていれば出来るようになる程度の味です」
「…」
「あまり褒められても恥ずかしくなるだけなので…」

褒められ慣れしていない私はどうしたものかとソワソワしてしまう。

(あわわわ~やっぱりこの人、絶対普通の人と違う!)

どういったらいいのか解らないけれど、一緒にいればいる程にこの人が普通の男性ではない事をひしひしと感じて来た。

(これ以上一緒にいると変な気持ちになりそう)

そう思った私は、男性に出て行って貰えるようやんわりと云うにはどうしたらいいかな、と考える。

そんな思考中の私に男性が先に言葉を発した。

「あなたのお名前をお訊きしても宜しいでしょうか?」
「え」
「僕の名前は言守志信(コトガミ シノブ)と云います」
「あ…私は五條古世美です」

先に名乗られてしまったので、つられて私も名乗ってしまった。

すると私の名前を訊いた男性は一瞬、何ともいえない表情をした。

「──五條……失礼ですが、お父上のご職業をお訊きしても?」
「父ですか?普通の公務員ですけど」
「…公務員……そうですか」
「?」

(なんだろう、何かあるのかな)

少し変な空気になったけれど、男性はすぐに元の表情に戻り話を続けた。

「こよみ、とはどのような字を書かれます?」
「えっと…古い世に美しいです」
「……成程、素敵なお名前ですね」
「!」

にっこりと微笑まれて胸がドキンと高鳴った。

(こ…この人…何?!)

名前を告げた瞬間、何ともいえない清浄な空気が周りに発生して其れが私を取り巻く様な感覚がした。

(なんだろう…この胸の高鳴り)

先刻よりもより一層胸が締め付けられるほどに高鳴り、どうにも居た堪れなくなってしまった。

(あれ?…なんか…クラクラして、来た…)

胸の高鳴りと同時に、何処からかふんわりといい香りが漂って来て少し眩暈を感じた。

「危ない」

グラッと視界が揺れた──と思った瞬間、私の体は温もりに包まれた。

(あ…)

傾いた私の体を男性──言守さんが支えてくれたのだと思った瞬間、私の意識は途切れてしまったのだった。









『真名のやり取りをされたと──そう仰るのですか?』
『はい』
『な…何という事をっ…!わたしは其のような事をさせるために手引きしたのではありません』
『えぇ、解っています──蔦留には申し訳ないことをしました』
『っ!其のようなお言葉、仰ってはなりません』
『しかし…僕はもっと叱咤される様な事もしてしまったので』
『! ……ま、ま、さか…』
『はい、其のまさか、です』
『おぉぉぉぉぉぉぉ───!!!』


(…ぅうん…何…先刻から…)

耳元で煩いなぁと思い徐々に意識が覚醒して行った。

「あぁ、目が覚めましたか?古世美さん」
「……ぇ」

目の前には端正な顔に柔和な微笑みを湛えた言守さんがいた。

「?! な…なっ」

驚き過ぎて思わずガバッと飛び起き上がった。

すると視界の端に正座している男性がいるのが映った。

「えっ、ど、どなた様ですか?!」

思わず声を荒げてしまった私と視線が合った男性は私の事を見た瞬間、顔を赤らめ慌てて視線を外したのだった。

古-イニシエロマンス-恋
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