「此処は…物置小屋、ですか?」
「はっ?!違います、私の家です、部屋です!」
「……え」

公園のベンチ脇で行き倒れていた男性を連れて自宅に帰って来た私は、開口一番に云われた其の言葉にカチンとした。

「家賃4万3千円の1DKなんて私にとっては豪華過ぎる住まいです!」
「……はぁ…成程」
「物置じゃないですから」
「…申し訳ございませんでした。僕みたいな世間知らずの若造が生意気な事を云いました」
「えっ」

いきなり其の場で土下座した男性にギョッとした。

「何とお詫びしたらいいのか…あなたは食事をご馳走してくださると云ってくださった恩人さまなのに…」
「ちょ…お、大袈裟です!止めてください、頭を上げてくださいっ」

私は慌ててしまってつい、其の男性の肩に触れてしまった。

其の瞬間、男性が「っ」と小さく呻き、そして上げた顔を私に向けた。

「……」
「…あの?」
「……」
「えぇっと…どうかしましたか?」

私を凝視したまま動かなくなった男性を心配してどうしたものかと焦った。

けれど其れはほんの数十秒の事ですぐに

「…いえ…僕の非礼をお赦しいただけますか?」
「はい、大丈夫です、怒っていません」
「そうですか…よかったです」
「!」

そう云って微笑んだ男性の顔がやけに神々しくて、私は顔に熱が集まるのを感じてしまったのだった。


「食事の支度が終るまで待っていてください」
「はい」

男性をソファに座らせ、一応テレビを付けた。

テレビから流れるバラエティー番組を目を見開いて無言で凝視している男性を見て

(まさか…いくら何でもテレビを観た事がないって云わないわよね?)

などとくだらない事を考えながら、手早く食事の支度をしたのだった。



「どうぞ、召し上がれ」
「…」

数十分後、なんとか完成した食事を前に男性はまた固まってしまっていた。

(なんだろう…本当おかしな人だなぁ)

おかしな人──だと思うのに、何故か男性に対して警戒心とか恐怖心とか怖い印象を持たない事が不思議だと思った。

(普通、しないよね…こんな事)

見ず知らずの行き倒れの男の人を容易に自宅に上がらせ、食事を振る舞うなんて真似、私だったらしないと思っていたのに…

(どうしてこの人には出来ちゃうんだろう?)

そんな事を考えながら、目の前の男性が次に何を云うのか構えていると

「これが…みなさんが云う処の普通の食事──というものなんですね」
「……はぁ」

(また変な事を云い出した)

男性はまじまじとご飯と豆腐とわかめのお味噌汁、そして塩サバの焼き物と里芋と人参と椎茸の煮物を見ながらそう呟いた。

(ひょっとしてこの人…よっぽどのお金持ちのぼんぼんとか…何処かの御曹司とか…そういった類のセレブなのかな)

漫画でよくある設定だ。

身分の高い男性と庶民の女の子の恋愛物語。

何かの事情でお城から飛び出した王子様が倒れていて、其れを助けた庶民の女の子がお世話をする内にふたりの間に恋が芽生えて、そして──

(って!そんな都合のいい話がリアルでなんかないよね!)

いくら漫画好きで、夢見る夢子な私でも漫画と現実は違うと重々承知している。

(…とはいえ、このシチュエーションって…まるでそういった類の話と似ているんだけど)

色んな妄想に耽っている私の耳に「おかわりくださいますか?」という涼し気な声が聞こえ、ようやく我に返ったのだった。

古-イニシエロマンス-恋
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