悶々とした一夜を過ごし、翌日は絶好のデート日和になった。

GW間近の街中は人で溢れ返っていた。


「あの…おひとりですか?」
「え」

駅の改札口で携帯を観ていた私に掛けられた声はこれで三度目だった。

「よかったらお茶でも」
「すみません、待ち合わせしているので」
「彼氏、ですか?」
「はい」
「…そ、ですか」

今の処しつこいタイプのナンパじゃなくてホッとしている。

(というか今日はやけにハイペースで声を掛けられるなぁ)

ナンパされるのには慣れていた。

淡泊なものからしつこいものまでありとあらゆる誘いをされ、其の度に断る技術が身について行っている気がした。

此処に立ってからまだ10分足らず。

約束の時間まであと10分程あったけれど、私が愉しみにし過ぎて早く来てしまった事が悪かったのかも知れない。

(なんだか通り過ぎる人が滅茶苦茶見て来るんだけど…)

そういった視線も慣れているはずだけれど、其れにしても今日はやたらと見られるし声を掛けられた。

(なんで?)

そんな事を考えていると

「ねぇねぇ、彼女、一緒に遊びに行かない?」

(また)

軽薄な誘いにいい加減腹立たしく思っていると

「杏奈」
「!」

グイッと引っ張られた腕と声にドキッとした。

(あっ)

其のまま私を後ろにして、ナンパ男の前に立ちはだかったのは恭輔だった。

「んだぁ、ガキが邪魔してんじゃねぇよ」
「ガキじゃない。っていうか人の女ナンパしてんじゃない」
「は?女?誰の」
「俺の」
「おいおい、変な寝言云ってんじゃ──」
「本当です!」

居ても立っても居られなくなった私は後ろから応戦した。

「はぁ?冗談だろ、子ども相手に何云ってんの」
「子どもじゃありません!彼はれっきとした大人です!私の大切な彼氏です!」

私の声に通りすがりの人たちが何事かと見て行く。

其の視線にたじろいだのかナンパ男は「チッ」と舌打ちをしながら其の場を立ち去って行った。

「…はぁ~よかった」
「杏奈…」

思わず恭輔を後ろから抱きしめた。

瞬間、周りから「マジかよ」とか「嘘だろ」なんて声が聞こえたけれど、そんなの気にしない位に恭輔に抱きつきたかった。

「ありがとう…助けてくれて」
「いや…なんか俺、全然役に立たなくて」
「そんな事ないよ…嬉しかった」
「え」
「俺の女って云ってくれたの…嬉しかった」
「…杏奈」

生憎後ろ向きだったから恭輔がどんな顔をしているのか解らなかったけれど、其れでも恭輔に回した私の腕をそっと優しく触れてくれた事で恭輔の気持ちが解るような気がした。


「遅くなってごめん」
「ううん、私が早く来ちゃったから…」

改札口を抜け、ホームへと歩きながらようやくちゃんとした会話が始まった。

「なんかさ…今日の杏奈」
「え」

少し頬を染めて上擦った声が恭輔から出た。

「いつも以上に綺麗で…滅茶苦茶可愛い」
「!」
「何、其の服…すっごい似合っているんだけど」
「本当?今日の為に目一杯お洒落したの。似合っているって云われて嬉しい」
「っ!」

今日の為に、恭輔の為に着飾った事に気が付いてもらえて、しかも褒めてもらった事が嬉しかった。

「…あぁ、もう…複雑」
「? どうしたの」
「杏奈が俺の為に綺麗になればなるほど煩い虫が集(タカ)る」
「…」
「本当…檻の中にでも閉じ込めておきたい」
「っ!」

ボソッと呟いた恭輔の物騒な言葉にドキッとしながらも、そんな危ない事を考えてしまう恭輔の一面にも胸が高鳴ってしまう私も危ない思考の持ち主なのかも知れないとそっと息を吐いたのだった。

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