カラン♪ 

お店のドアの鈴が鳴る度に注目してしまう。

(来たっ)

何度目かの注目でやっと目的の人を捉え一気に心が華やいだ。

「遅くなってごめん」
「ううん、そんなに待っていなかったよ」
「ナンパ、されなかった?」
「え、されていないよ」
「本当?」
「本当本当」

うんうんと何度も頷く私に恭輔はホッと息を吐いた。

「まぁ…此処、そういう雰囲気のお店じゃないしね」
「そうだよ。私なんかよりもみんな漫画に夢中」

クスッと笑って周りを見渡す。

金曜日の待ち合わせは漫画喫茶だった。

お店の中は細かく仕切られているスペースの他にも開けたスペースがあったけれど、其方にはあまり人がいなくて静かだった。

仮に人がいたとしても女性を気軽にナンパする様な人がいる訳ではないから私ひとりが待っていても安心出来た。

「帰りしなに課長に雑用頼まれちゃってさぁ…参った」
「課長、どうでもいい事をすぐ人に頼むからね」
「うん、本当大した事じゃないのにね」

共通の会話が出来るのも嬉しいと思った。

多分、其の内同じ会社に勤めていると都合が悪いと感じる事も出て来るかも知れなかったけれど、今はただ嬉しいや愉しいという気持ちが大きくあった。

「お腹減ったね。何処かでご飯食べようか」
「…」

私が切り出した言葉に恭輔は少し考え、そして

「俺の家で食べようか」
「…」

そう云ってくれた事に咄嗟に頷けなかった私がいた。

「…あれ?厭?」
「え…っと…ね。今日は…ちゃんと家に帰ろう?」
「え、なんで?折角の金曜日だよ。明日の事もあるしこのまま俺の部屋に泊まって──」
「明日、だから」
「え」

少し語気を強めて強調した明日という私の言葉に恭輔は訳の解らない顔をした。

「明日…デート、するでしょう?」
「うん」
「初めての、デート…でしょう?」
「うん」
「だから…ね、私…色々準備とか心構えとか…そういうのしたくて」
「……うん」
「だから今日はちゃんと家に帰って…明日、万全の態勢でデートに臨みたいの」
「……」

素直な気持ちを正直に吐露すると、表情を失くしていた恭輔の顔がみるみる血色のいいものになって行った。

「…恭輔?」
「杏奈…君って…本当」
「?」
「~~~本っっっ当、可愛過ぎっ」
「!」

何を云うかと思えば頬を赤らめながらそんな事を云うものだからつられて私も顔に熱が集まった。

「あーもぅ、俺…デリカシーなさ過ぎ。杏奈のそういう気持ち、解ってあげられなくて…」
「そんな、恭輔がそんな事思わなくていいよ。私が勝手に──」
「…ありがとう」
「え」
「そんなに俺とのデート、愉しみにしてくれて」
「……」
「俺、本当幸せ者だなぁ」
「~~~」

ふにゃっと笑った恭輔の顔が滅茶苦茶可愛らしくて今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られた。

(~~だけど此処は公共の場!)

ギリギリの処をなけなしの理性で抑え込み、私はなんとか恭輔に向き合った。

「だから今日は…普通にご飯食べて帰ろう?其の代わり明日は──」
「ずっと放さないから」
「っ」
「デート終わっても、俺の部屋に閉じ込めて色々教えてあげるからね」
「~~~」

可愛らしい子ども顔から一転、獲物を捕らえた肉食獣の様な獰猛な視線で私を見つめる恭輔にドキドキした。

(や、やっぱり恭輔…大人だ…)

少し熱の孕んだ顔と体を持て余して、私は自分が決めた今日の行動に少しだけ後悔したのだった。

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