翌日の宵の口───

「おぉ!先生がいる!」
「先生、来てくださったんですね」
「おまえらだけだと心配なんだよ、彼女が」
「心配ってなんだよ!なんもしないよ?まだ」
「はい。知り合って間もない女性に対して不埒な事などしません」
「じゃあ時間が経ったらするのかよ、不埒な事を」

「…あはは」

 其々仕事を終えた北原さんと南さんがお店までやって来た。

ふたりが来る少し前に東藤さんも姿を現していた。

(なんだか東藤さんって保護者みたい)

北原さんと南さんとのやり取りを見ているとついそう思ってしまう。

「んじゃあ行くか」

北原さんの掛け声で、お店近くにあるという飲み屋さんまで歩いて行く事になった。

初夏のせいで夜7時過ぎだというのに空にはまだ薄っすら夕焼けの色が残っていた。

あぜ道の両側の田んぼには植えられたばかりのお米のちいさな苗がユラユラ揺れていた。

(本当…のどかだな)

時折強く吹く風が生温くて来るべき夏の匂いを運んで来ている様だった。

歩き始めてから10分ほど経って、北原さんがとある一軒のお店に入って行った。

(え…此処って…)

其のお店の外装は何処からどう見てもザ・スナックという風貌をしていた。

「どうした」

お店の前で茫然と佇む私に東藤さんが声を掛けた。

「あ…いえ…飲みに行くって云っていたからてっきり居酒屋みたいな感じの処かなって…」
「あぁ、この町には洒落た居酒屋はないよ。酒飲み場といえばスナックだな」
「…」

(そ、其処まで田舎だったんだ…)

この町に越して来てからまだ日が浅い私はお店周りしか知らず、町全体がどういった感じなのかを把握しきれていなかった。

「こういう店も慣れればいいものだよ」
「…そうですよね」

ポンッと軽く背中を押され、私は東藤さんと共にお店の中に入った。

「いらっしゃ~い!」
「!」

甲高い甘ったるい声にドキッとした。

薄暗い店内の中、カウンター内から声を掛けてくれたのは目玉が飛び出る程の美女だった。

(ふぁっ!び、びびび、美人!!)

女の私から見ても胸が高鳴ってしまうような美女がにこやかに出迎えてくれた。

「きゃっ!先生~来てくれてありがとう!待っていたわ~」
「あーはいはい。とりあえずいつもの」
「かしこまりましたぁ──って…そっちの小娘、誰よ?!」
「っ!」

急に声のトーンが低くなった美女が鋭く私の姿を射抜いた。

(も、もしかして私…誤解されている?!)

先刻の東藤さんに対する対応からこの美女は東藤さんと何らかの関係があって、そんな東藤さんと一緒に来店した私を快く思わず視線で射殺そうと──

「彼女、十喜代さんの孫の美野里さん」
「え、十喜代さんの?」

私が変な想像をしている間に東藤さんと美女はひと言ふた言を交わし、そして

「ぃやぁ~ん!美野里ちゃん、ようこそ♪」
「……へ」

先刻までの剣呑とした雰囲気はあっという間に一掃され、あたたかい歓迎ムードの言葉が美女から飛び出た。

「十喜代さんのお孫さんなのね~あたし、このお店のママの蘭です。よろしくしてね~」
「は…はい、此方こそよろしくお願いします」

(お婆ちゃんの孫って訊いてから態度が一変した?!)

一体祖母はこの町でどのような位置づけにあったのだろうかと気になった私だった。

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