ボロボロになった私の耳に届いた声に沿って視線を流すと、其処には今までとは雰囲気が全く違う中山さんがいた。

「茶番は此処までだ──美加」
「……ぇ」

続く言葉に心が凍り付く。

(中山さんが…美加って…)

美加──と中山さんが声を掛けた視線の先には久遠寺智里がいた。

(ど、どういう…事)

「…何だよ、いいのかよ、バラして」
「あぁ…もういい」
「そうかよ──じゃあ、おれはもうお役御免か?」
「あぁ」
「あっそ…んじゃあ、おれ帰るわ。東京でハニーが待っている事だし」
「くれぐれもよろしく云っておいてくれ」
「へいへい。あ、今回はいつもよりちょっと色を付けろよ」
「解っている」

「…」

(今…何が起こっている…の?)

目の前で繰り広げられている状況に頭がついて行っていない。

茫然とする私は久遠寺智里が部屋から出て行くのをただ眺めるしかなった。


「──さて」
「っ!」

中山さんとふたりきりになった部屋に響いた声にドキッとした。

「あ…あ、あの…」

私をジッと見つめる中山さんになんて云ったらいいのか迷い、上手く言葉が出てこない。

「…はぁ…参ったな、本当」
「!」

狼狽えるばかりの私を前に中山さんは「何から話せばいいか」と呟いた。

だけど何かを思いついたのか、中山さんは其のままピアノの前まで歩んで行った。

そして流れるような動作でピアノを弾き始めた。

(えっ!)

始まった旋律にまるで脳天から雷に打たれたかのような衝撃が走った。

(な…何…これ)

其のピアノの音は紛れもなく私の記憶にある久遠寺智里其のものだった。

奏でられる其の曲は私が愛してやまない『eternal』。

「あ…あ…」

今、目の前で繰り広げられている光景が段々ぼやけて来た。

「ぅそ…嘘、嘘、嘘…」

其の演奏は先程聴いた久遠寺智里のものとは比べようのない程に素晴らしいものだった。



やがて最後の音符が弾かれ、音の洪水に呑み込まれていた部屋の中に再び静寂が訪れた。

「…」

私は其の場で放心状態に陥っていた。

「え…あの…新実さん?!」

そう云って中山さんに体を揺すられ、やっと私の意識は戻って来た。

「あ…あぁ…」
「…新実さん」
「あなたが……中山さんが…久遠寺智里…?」
「…はい」
「!」

其の瞬間、私の理性の糸がプツンを切れた音が聞こえたような気がした。

「く、久遠寺さん…っ!」
「わっ」

私は気持ちのままに中山──ううん、本物の久遠寺智里に抱き付いた。

「久遠寺さん、久遠寺さん…!」
「…騙していて…ごめん」
「久遠寺さん、久遠寺さんっ」
「僕は──俺は君を試していた」
「……ぇ」

久遠寺智里の名前を発する事しか出来なかった私を正気に戻す言葉を掛けられ、やっと私は冷静になった気がした。

00000a41
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村