『嘘じゃない。 ゼロの可能性があるなら100の可能性だってあるだろう?弾いた四曲全ておれが作曲した正真正銘の最高作品だ』


久遠寺智里が放った其の言葉は、私が賭けに負けた事を意味していた。

「うそ…嘘」
「だから嘘じゃないって。ぜーんぶおれが作った曲」
「…」
「だから君は賭けに負けたって事」
「…」
「──という事で…負けた時の約束は覚えているよね?」
「っ!」

不意に立ち上がった久遠寺智里が私の手首を掴んだ。

「早速おれの部屋に行こうか」
「なっ」
「まさか厭だなんて云わないよね?君だって久遠寺智里と寝られなんて自慢のひとつになるってもんだ」
「…」
「自慢にもなって曲も書いてもらえる。まさに一石二鳥ってこの事だよね」
「…ゃ」
「ん?」
「ぃ…や」
「駄々捏ねないで。もう子どもじゃないんでしょう?」
「や…厭ぁ!」
「っ」

私は掴まれていない方の手で久遠寺智里の頬を叩いた。

静かな部屋に響いたバチンという音。

其れは思った以上に大きく響いた。

「~~っ痛」
「やだ…厭だ!止めてくださいっ」
「何、約束、反故にするって──」
「久遠寺智里をあなたが穢さないでください!」
「!」

其の瞬間、目の前の久遠寺智里が目を見開いた。

「ほ…本当の久遠寺智里を…あなたが…久遠寺智里本人が…貶めないでください」
「…え」
「本当のあなたはそんな人じゃない!本当はもっとずっと孤高で…寂しがり屋の癖に虚勢を張ってしまう人なんです!」
「…」
「優しい面も、穏やかな面もあるけれど…其れはほんの表面的な事で…本当のあなたは何かを手に入れたくて心の奥底に燻っている大火を本当に欲しい物を手に入れる事で消し去りたいと思っているんです!」
「…」
「だから…だから誰彼構わずこんな風に遊びみたいな気持ちで…久遠寺智里を…貶めないでください」
「…」

気が付けば泣いていた。

次から次へとボロボロと涙が零れていた。

「きょ…曲は…要りません…わた、私は…これからも…あなたの曲を陰ながら聴いて応援して、其れで」
「…はぁ、厭になるなぁ」
「…え」

ボソッと呟く様に云われた言葉に俯いていた顔を上げた。

すると其処には心底厭そうな顔をした久遠寺智里がいた。

「なんか、勝手におれの事を解った気でいるかも知れないけど、そんなのは君が勝手に作り上げた久遠寺智里像でしょう?」
「…」
「よくいるんだよね。そうやって自分勝手に妄想した偶像を本人に押し付ける人って」
「…」
「おれの何を知っているって云うんだよ──偉そうに」
「…」
「本当のおれはこのおれでしかねぇよ。これが真実だよ!」
「っ!」

酷い罵りの言葉に再起不能に陥りそうになった。

まさかこんな展開になってしまうなんて考えもしなかった。

(…でも久遠寺智里が云っている事も解る)

解るからこそ、私が今まで心の支えにして来た久遠寺智里が久遠寺智里本人によって砕けて無くなってしまう事に恐怖した。

(もう…ダメ…)

そう心が折れかけた瞬間


「──其処までだ」
「っ!」

(…え)

酷く低い声が私の隣から聞こえた。

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