一曲目、二曲目、三曲目──と流れる様に旋律が次々と部屋中に響き渡っていた。


(す…凄い)

目の前で奏でられる久遠寺智里のピアノ姿に感嘆のため息をついた。

(凄く絵になるっていうか…圧巻!)

最後の四曲目を聴き終えた時、其れ等全てが今まで世の中に出されていない曲だったという事を思い知らされた。

「…凄い」
「え」

思わず漏れ出た言葉に、隣に座っていた中山さんが訊き返した。

「何…これ…凄過ぎる」
「…」
「全部…全部…素敵」
「…」

高揚感が体中を駆け巡り、思わずフルッと震えた体を両腕で抱きしめた。

「──以上!」

そう云ってピアノから放れた久遠寺智里が恭しくお辞儀をした。

「ブラボー!」

私は思わず立ち上がって盛大な拍手を送った。

「おや、これは嬉しいな。たったひとりのためのリサイタルに充分過ぎる賛辞を頂いた」
「凄い…本当に凄かったです!」

中々拍手が止められないほどに興奮した私は中山さんからの「もう充分ですよ」の言葉にようやく叩く掌を止める事が出来た。

「す、すみません…本当に感動して…」
「…」
「私、幸せです。久遠寺さんの生演奏が聴けるなんて…」
「…」

興奮冷めやらぬ私の言葉を中山さんは無表情に見つめていた。

(あ…っ)

其の何処か冷ややかな視線に、自分が今置かれている状況というものを思い出し恥ずかしくなった。


「さて──其れじゃ答えを訊こうかな」
「!」

椅子を持ちながら私の目の前に座った久遠寺智里が真っ直ぐに私を見た。

「今演奏した四曲の内、久遠寺智里が作った曲は何番?」
「…」

一瞬にして部屋の中の空気が変わった。

ピアノを演奏する前に似た、緊張感漲る空気感に変化していたのを肌にビリビリと感じた。

(…此処が…私の運命の分かれ道)

自然とゴクッと喉が鳴り、私は私が感じた気持ちを素直に伝えようと思った。


「さぁ、答えを」
「答えは…」
「答えは?」

久遠寺智里に誘(イザナ)われるテンポで私は答えを述べた。

「四曲中、久遠寺智里の曲は……ありません」
「──え」
「…」

私の答えに久遠寺智里と中山さんは目を見開いた。

「四曲とも久遠寺智里の曲ではありませんでした」
「一曲も?」
「はい…久遠寺さんは四曲の内、何曲が久遠寺智里のものか具体的な数字を云っていませんでした」
「…」
「という事は四曲中ゼロという可能性もある訳ですよね」
「まぁ、そうだね」
「……でも」
「でも?」
「おかしいんです…確かに久遠生智里の曲ではないのに…全てが久遠寺智里の音になっている」
「音?」
「其れは久遠寺さん本人が弾いているからそうなっているんだろうと思ったのですが…でも…なんだかとても…訳の解らない違和感があるんです」
「違和感?」
「えぇ…でも曲は…久遠寺智里ではありません」
「…其れはつまり、四曲全部おれの作った曲ではないと、そういう回答でいいのかな」
「はい」

私はきっぱりと答えた。

私の中で大きくなる違和感の正体が何なのかよく解らなかったけれど、曲だけに関して云うのなら、今聴いた曲の中に久遠寺智里の曲はなかった。

其れだけは自信があった。



「残念」
「…え」
「正解は四曲全部、おれが作った曲だよ」
「………う、そ」
「嘘じゃない。 ゼロの可能性があるなら100の可能性だってあるだろう?弾いた四曲全ておれが作曲した正真正銘の最高作品だ」
「……」

まるで足元からガラガラと崩れる様な感覚に襲われ、私は何も考えられなくなってしまった。

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