「何かありましたか?」
「…え」

ダイニングテーブルに中山さんと向かい合って夕食を頂いている席でそう問われた。

「先生、珍しく本気モードだったので…そう、思ったんですが」
「…」
「よかったら話してもらえませんか?」
「…はい」

私は広場であった事を簡潔に中山さんに話した。


すると

「成程…其れは痛い処を突きましたね」
「え」
「いやはや…やはり新実さんは今まで来訪したどの人たちよりも本当に先生の事を深く解っているんですね」
「…どういう意味でしょう」
「口先でファンです、好きです、尊敬していますという人たちは本当の意味で久遠寺智里という人を知ってはいません」
「…」
「と、いうより知ろうとしない。本気で久遠寺智里の曲を欲しいという意欲がないのです」
「意欲がない?」
「はい。ただ『久遠寺智里』という名前がついた曲だけが欲しいのです」
「…」
「其処に久遠寺智里の気持ちや込めた想いを知ろうとしない。其れこそ名前だけ──ですね」
「…」
「意外とそういうのに先生は敏感です。だから突っぱねるんです」
「…」
「一度や二度、突っぱねられてへこたれる様な人には一切曲を提供しません。でも三度、其れでも曲が欲しいと粘った人には曲を書くのです」
「其の人が名前だけの曲が欲しいと思っていても…ですか?」
「はい──其処まで粘る気概があるならご褒美に、という感じで。やっぱりごく短い時間で作った曲をですが」
「…なんだか…寂しい人、なんですね」
「どうしてそう思いますか」
「あ…決して悪口じゃないです。でも…最初『eternal』を聴いた時にも思ったんです。この曲を作った人はとても寂しい人なんじゃないかって」
「…」 
「主旋律はとても明るくて穏やかな感じなのに、時折入る対旋律はとても暗い。勿論凄く微妙な違いなんですけど…どうしても同じ曲を奏でている気がしなくて、でもそんなアンバランスな処が曲全体をとても複雑化していて聴けば聴くほどに心に刺さるんです」
「新実さんは其れを8歳の時に感じたのですか?」
「何となくそう思った程度です。どうしてこんなに『eternal』にハマるんだろうって考えた末に辿り着いた答えが其れでした」
「つまり、先生は二面性を持った人間だと」
「…初めて逢った時は其の華やかな外見や物腰の柔らかさに一瞬惹かれましたけど…でも本当は先刻、広場で話した時の様に自分に対して若干卑屈に感じる部分があって、其れを解ってもらいたい気持ちが何処かにあるんじゃないかと」
「…」
「本当の自分を解ってくれるたったひとりを探している…みたいな」
「つまり先生はかまってちゃんで運命の人を探し続けるロマンチスト、という事ですか」
「そんな砕けた云い方で一括りには出来ませんけれど」
「──成程…本当にこれは…思わぬ拾い物かも知れませんね」
「え」
「いえ、さぁ、食事を続けてください。折角の料理が冷めてしまいます」
「あ、はい」

(なんか…変な気持ちだなぁ)

再開された食事を頂きながらチラッと中山さんを盗み見る。

静かに食事する其の姿はとても端正だった。

(でも…なんだろう…なんか…似てる)

久遠寺智里と話していて感じる雰囲気を中山さんにも感じてしまって、なんだかおかしな気持ちになる。

(どうして、だろう?)


久遠寺智里に感じる僅かな違和感。

そして中山さんに感じる微妙な既視感。


(あぁ…解らない~~)

こんがらがった頭を数回振って少しクラクラした処を中山さんに見られて「どうしました?」と訊かれてしまう。

そんな恥ずかしさを隠しながら、私は黙々と食事を続けたのだった。

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