部屋でぼんやりしていると色んな事が頭を過って気が滅入りそうだった。

(やる事がないなぁ…)

しばらく此方に滞在する事になった経緯を事務所の社長に連絡すると

『もし負けても寝るんじゃない!曲なんてもらわなくてもいいから絶対に寝るなよ!』

と意外な言葉が返って来た。

(てっきりチャンスじゃないかって喜ぶと思ったけれど)

口は悪いけれど、本当は私の事を心配してくれているだろう社長の態度が垣間見れる度に戸惑う。

(性格はよくないけど…人としては好感が持てる…かな?)

今までの仕打ちや浴びせられた罵詈雑言の恨みはまだ私の心の中に残っているから素直に好きだと口には出せなかったけれど。


「しかしまぁ…暇だなぁ」

やる事がないのはいつもと同じだけれど、兎に角此処は時間を潰す娯楽とか設備とかお店とかが無さ過ぎる。

(……)

ふと思い立って私は部屋から出た。



「おや、新実さん?」
「あ」

玄関に向かう途中でトレイを抱えた中山さんに逢った。

「何処かにお出かけですか?」
「はい。ちょっと其処ら辺を散歩してこようかと」
「そうですか。あまり森の奥へは行かない様に。あと薄暗くなるとあっという間に真っ暗になるので気を付けてくださいね」
「はい、解りました」
「外に出てから右の道なりを真っ直ぐに行くと少し開けた場所に出ます。其処にはちょっとした水場があるので愉しめるかも知れません」
「そうなんですか?行ってみます」
「はい。くれぐれも迷子にならない様に」
「はい」

私は中山さんに見送られながら外に出た。


表札のある柵まで来て右側を見る。

「右の道なり…だったよね」

中山さんに云われた通り右に向かって歩き出した。

まるで獣道みたいな、辛うじて道だと解る線を踏みしめながら歩いて行く。

「凄いなぁ…背の高い草や木が生い茂っていて…」

本当に森って表現が当てはまっている濃い緑の中を縫って歩いて行くと──

「あ」

少し開けた場所が出没した。

「わぁ」

其処には小さいけれど泉みたいな水場があった。

(これ…人の手で作ったものよね?)

透き通った泉の底から自然と水が湧き出ているけれど、其れを受ける器は人工物だった。

水の中にはビー玉やクリスタルで出来ている花の形をしたものが沈められていて時々光が反射してキラキラしていた。

「凄い…綺麗」

其れに小さな花壇が幾つもあり、其処に沿ってベンチも置いてあった。

(此処…ちょっとした休憩スペースみたいになっているのかな?)

自然の緑に囲まれた中でポツンと存在する人工物が何故かホッとした気持ちにさせる。

「なんか…いいなぁ、こういうの」

私はベンチに座って周りの景色を見回した。

時折風が森の木の葉を揺らし、まるで歌っているかのように聴こえた。

「ふぅ…ん」

其の木々たちの歌につられて私も思わずアカペラで歌を口ずさんでいた。

自分の作った曲を歌い終わると、自然にハミングで奏でるのは私の思い出の曲。

(『eternal』…初めて聴いた久遠寺智里の曲)

8歳の私が一聴き惚れした曲。

親に強請ってCDを買ってもらって、擦り切れる程聴いた曲。

其れからも久遠寺智里の曲は何曲も聴いたけれど、やっぱり一番好きなのはこの『eternal』だった。


(聴く度に胸が締め付けられる…)


思わず涙が零れそうになった其の時、背後から物音がして驚いた。

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