他の人と久遠寺智里の曲は全然違う。 

其れは聴けば解る事。

だけど何処がどう違うのか──

其れを口に出して説明する事は難しかった。


「よし、解った」
「!」

パンッと掌を叩いた久遠寺智里はとても面白く云った。

「君、しばらく此処にいなさい」
「…は?」
「おれが新曲を書き上げる間、此処に逗留する事」
「え…ぇ」
「何曲か聴かせる中で、どの曲がおれの曲かを当てられたら其の曲を君にプレゼントするよ」
「! ほ、本当ですか?!」
「うん、おれ、嘘云わないよ」
「~~~」

(嘘みたいだけど本当の話!神様、ありがとうございます!!)

憧れの久遠寺智里から曲を提供される。

この悲願が叶う時が来るとは思いもしなかったから余計に嬉しかった。

「──ただし」

続く言葉に私が感じていた幸福感はあっという間に薄れてしまった。

「おれの曲を当てられなかった場合は──当初抱いていたおれの思惑通りの事をさせてもらうよ」
「…抱いていた思惑…?」
「枕営業」
「!」
「おれと寝てくれたら曲をあげるよ」
「なっ」
「君、資料の写真でも可愛かったけど、実物見たら益々好みだからさ、顔も体も」
「…」
「普通なら寝るだけで曲なんか書いてやらないけど、君は特別。おれが満足行くまでセックスしてくれたら曲、書いてあげるから」
「な…なっ…」
「どう?勝っても負けても君には全然損のない話でしょう?」
「~~~」

──信じられない…!

(社長から訊かされた噂話は本当だったって事?!)


「さぁ、どうする?おれの案に乗る?其れともこのままお帰りコース?」
「……っ」
「まぁおれはどっちでもいいよ?無理矢理無体な事をする趣味もないし」
「…す」
「ん?」
「~~やり、ます」
「…」
「絶対…解りますから、私」
「ふふっ、そうこなくっちゃ」

(そうよ…私が久遠寺智里の曲を当てればいいだけの話よ)

其の事に関しては絶対の自信があるから負ける事の心配なんてしなくていいのだ。

「其の代わり…ちゃんと久遠寺智里として恥ずかしくない曲を書いてください!手を抜いていい加減な曲を──」
「そんな事しないよ」
「っ!」

一瞬周りの空気がビリビリと緊張感を放った気がした。

「久遠寺智里の名前を付けた曲だ。生半可なものを作る訳がない」
「…」
「──という訳で、おーい美加ちゃーん」
「え」

(みかちゃんって…女の子がいるの?!)

一瞬ギョッとしたけれど、呼ばれてリビングに顔を覗かせたのは先程のエプロン姿の中山さんだった。

「もう、先生。お客さんがいる前で僕の事ちゃん付けで呼ばないでください」
「いいじゃないか、おれは結構気に入ってるんだけど」

(この人、みかって云うんだ)

私がポカンとふたりの様子を見ているとみかと呼ばれた中山さんが少し顔を赤らめながら

「えーっと、僕は中山 美加流(ナカヤマ ミカル)といいます」
「みかる…さん」

(変わった名前)

「えぇ、其れで先生は僕の事を美加って呼ぶんですけどね」
「ちゃん付けた方が可愛いじゃないか、ねぇ、君もそう思うよね」
「ちょ…お客さんに同意を求めないでください」
「あはははっ、本当美加ってばからかい甲斐のある奴だな」
「…」

久遠寺智里と中山さんのやり取りを見ているとなんだか噂で訊いていた様な大物感は其処にはない様に思えた。

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