(…あっ)

リビングに入って来た人を見て私は絶句した。

「ようこそ。わざわざこんな辺境の地まで呼んでしまって悪かったね。おれが久遠寺です」
「…あ…は、はいっ」

目の前に現れた久遠寺智里は年齢から想像していた容姿とは全く違っていた。

(イ…イケメン過ぎるっ!)

キラキラと光る幻影が見える程の容姿に背の高さ。

まるで彫刻の様な彫の深い顔立ちは外国の血が入っているんじゃないかと思われた。

(何…何なの…この美しい人はっ)

初めて見た久遠寺智里に色んな意味で衝撃を受けて今にも倒れ込みそうになった。

「ん、どうかしたかい?なんだか顔色が優れないけれど」
「い…いえ…其の…初めて拝見した久遠寺さんが…眩しくて…」
「あははっ、うん、よく云われるよ。でもハーフってこんな感じでしょう?業界の人には珍しくもないと思うけどね」
 「ハーフ…」
「うん。母がイタリア人なんだ」
「はぁ…」

(納得の美形だ!)

「あ、でもイタリアとのハーフでもおれ、日本生まれの日本育ちだからイタリア語全然ダメだけどね」

あははっと豪快に喋る久遠寺智里は私のイメージの中の人ではなかったけれど、何となく曲からイメージされる雰囲気には近いものを感じた。

(この人が…本物の久遠寺智里)

8歳の時から逢いたい逢いたいと願って来た願望が12年の時を経て叶ったのだ。

静かな感動がジワジワと私の体中を席捲して行く。


はず…だったのに───


(あ、あれ?)


……感動はしている。

謎多き人物でありながら憧れの人だった久遠寺智里が今、目の前にいるのだ。

(感動しない訳、ないのに…)

「で、此処まで来てくれた用件というのは勿論おれに曲を書いて欲しいって事なんだよね?」
「…あ、はっはい」

ぼやけていた頭に久遠寺智里の声が響いて我に返った。

「んー君の資料を見させてもらったけど…ずっと自分で作詞作曲して来たんだね」
「はい。久遠寺さんの曲を初めて聴いた時から自分でも曲を作りたいと思って」
「初めて聴いた時から、ね」
「?」

クスッと笑った其の顔が少し歪んだように見えたのは気のせいだったか。

「なんか此処に来る人みんな同じような事云うから可笑しくて」
「…」
「おれの音楽って…何だろうね」
「…え」
「みんな『いい曲です』『素晴らしいです』『感動しました』なーんて常套句の様に云うんだけど、どこがどうそう思わせているんだろうなと時々思うんだよね」
「…」
「なんかさ、今じゃ別の誰かが作った曲でも【久遠寺智里】って名前をクレジットすれば売れるんじゃないかって思ったりもするんだよ」
「其れは違います!」
「え」
「…あっ」

思わず大きな声を上げてしまい、しまったと思った。

「あ、あの、すみません…出過ぎた事を云い──」
「どう違うの?」
「え」

久遠寺智里は思いの外不愉快な顔をしておらず、其れ処か面白そうなものを見つけたといわんばかりの笑みを浮かべていた。

「おれの曲と他人の曲。何処がどう違うのかな」
「そ…其れは…」
「違うんでしょう?」
「…違います…でも…あの」
「…」
「口に出して…説明するのが難しくて…」
「何其れ」
「でも、聴けば解ります!」
「…」
「私には解ります。久遠寺さんが作った曲かそうじゃないか…解るんです!」
「…」

我ながら大物相手に大胆な事を云っているなという焦りが心の中にあった。

だけど久遠寺智里が垣間見せた焦燥感にどうしても私は反論したくて恐ろしい事だと解っていても云わずにはいられなかった。

「…久遠寺さんの曲は…他の人とは違うんです…」
「──君、面白い事を云うね」
「…え」

てっきり怒られると思ってビクビクしていたのに、そう云って私に向けた視線が案外穏やかだった事に少しホッとした私だった。

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