「こ…此処、だ…」


電車に揺られる事1時間半。

駅からバスを乗り継いで更に1時間。

終点の停留場からタクシーで山道を走る事30分。

(着くまでにほぼ半日かかるなんて!)

グッタリしつつもようやく着いたという気持ちが疲れを半減させていた。


「…しかし」

タクシーを降りた場所には鬱蒼とした森の中にポツンと切り開かれた空間に建っているログハウスみたいな大きな家が鎮座していた。

(もしかして…別荘、なのかな?)

本宅は別の場所にあるのかも知れない。

(だって…)

家を囲む様に張り巡らされている柵に取り付けられている【中山】と書かれている表札。

指示された約束の場所へのルートの中にも最後はタクシーに乗って【寿々ノ森の中山】までと伝えるようにとあった。

(もしかして久遠寺智里というのは芸名…ペンネーム?)

そんな事を考えているといきなり玄関のドアが開いた。

「っ!」
「あぁ、やっぱりお客さんだった」

ひょっこりと顔を覗かせたのはエプロンを付けた背の高い男性だった。

「あ、あの…」
「車の音がしたから誰か来たと思って──あの、新実梨々香さん、ですよね?」
「あ、はい!新実です、あの私、久遠寺さんに逢いに──」
「はい、存じています。さぁ、どうぞお入りください」
「…は、はぃ」

始終にこやかに話す其の人はまるで水彩画の宗教画から抜け出したような好青年だった。

(ひょっとして…この人が…!)

何故かジンジンと痺れるような鈍痛が私の中でジワジワと広がって行く感覚があった。


──でも


「どうぞこちらでお待ちください。只今先生を呼んで来ますから」
「えっ」

リビングに通された私はエプロン姿の男性にそう云われハッとした。

「? 何か」
「あ、あの…あなたは…あなたが久遠寺さん、では」
「僕ですか?いえいえ、とんでもない。僕は先生の弟子兼世話係の者です」
「…弟子…世話係?」
「はい。多忙な先生の身の回りの世話を一切取り仕切っている中山といいます」
「中山って…このお家の」
「あ、表札はそうなっていますが、この家の所有者は久遠寺先生です。其のまま久遠寺とは出せませんので」
「あ…そう、ですね」

(中山…さん、かぁ)

一目見た瞬間、私の中の久遠寺智里像とイメージがピッタリだった中山さんに浅いときめきを感じた。

「では少々お待ちくださいね」
「あ、はいっ」

にこやかにリビングを出て行こうとした中山さんにソファから立ち上がって深く頭を下げた。

「…僕みたいな小間使いに頭を下げたりしないでください」
「え…あ…すみません」

顔を上げて見た中山さんが少し戸惑った表情をしたのが気になったけれど、私はそそくさとソファに座り直した。

中山さんが出て行ってからのリビングはシンッとして少し怖い位だった。

(森の中だからかな…雑音っていうか騒音が一切しない)

そんな静寂の空間に居心地の悪さを感じながらも淹れてもらった紅茶を飲んでいるとリビングのドアが開く音がした。

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