一目惚れというのはよく訊くけれど、まさか一聴き惚れなるものが存在するとは思わなかった。



「あ~無理無理無理無理」
「な、なんでそんな連呼するんですかっ」
「だって100%無理だからな」
「100%無理だなんて…やる前から決めつけないでください!」
「おまえなぁ…身の程知らずもいい処──ってまぁ、そんな無鉄砲な奴だからドサ周りも出来ちゃうんだろうけど」
「~~~」

(だって…何事も行動してみなきゃ解らないじゃない!)


私は新実 梨々香(ニイミ リリカ)20歳。

ちいさい頃からアーティストを夢見て独学でギターを弾き続けて自作の曲を動画配信や路上ライブで披露して来た。

そんな地道な努力の結果、ちいさいけれどとある音楽事務所の社長に拾ってもらい高校卒業後、LiLiCaという名前で本格的にアーティスト活動を始めていた。

自分で作詞作曲した勝負曲を引っ提げてデビューしてみたものの、鳴かず飛ばずの不発。

出来る限りの営業活動を頑張って来た二年。

しかし結果は今まで不発の連続だった。

事務所の社長兼マネージャーの五所 忠行(ゴショ タダユキ)からは

「おまえ、見かけがいいんだからいっそ歌って踊れるお馬鹿キャラのアイドル路線で売って行け」

と云われてしまう始末。

そんなのは絶対に厭!と思い詰めた私は幼い時の記憶が色濃く呼び起こされた。


「しっかし、本当おまえは見かけと度胸だけはいいな。あの久遠寺智里に曲を頼むとかって…普通素人はそんな大それた事は考えないぞ」
「素人じゃありません!一応デビューしたプロ──」
「稼げない奴は素人だ!アマチュアだ!」
「っ、ひ、酷い」
「酷いのは金を稼がない金食い虫のおまえだ」
「~~しゃ、社長には拾ってくれた恩がありますけど…そんな酷い事を云うなら私…」
「…」
「私ぃぃぃ~~~」
「だぁぁぁ!泣くな!解った、云い過ぎた!」
「…」
「そんな上目遣いで見るな、襲うぞ」
「!」
「馬鹿女、そんな悍ましいものを見る目になるな。冗談だ。いつか金を生み出すかも知れない商品に手なんか出すかよ」
「で、ですよねぇ~社長…目つき悪いんだから下手な冗談も冗談に聞こえませんからね」
「兎に角、久遠寺は無理だ」
「だから、どうして無理だって決めつけるんですか」
「あんな大物がおまえみたいな名もなき小物に曲なんか書く訳ないだろうが」
「でも、でも…一生懸命お願いしたら──」
「オレの事務所はちいさいが、其の手の噂は一人前に入って来るんだよ」
「噂?」
「超一流ミュージシャンのOやH。若手ながら実力ナンバーワンのAやらJ。其の他大勢の強者が久遠寺に曲を依頼するがことごとく蹴られているらしい」
「…」
「しかも女性アーティストの中には枕営業にこぎ着けやっと曲をもらったという話もある」
「ま…枕営業…」
「まぁ、要するにプロ中のプロがこの有様だ。そんな相手におまえが敵う訳──」
「…そんなんじゃ…ない」
「は?」
「久遠寺さんは…そんな酷い事…する訳ない」
「…おまえ、久遠寺智里に何幻想抱いてんの」
「…」
「こういう業界じゃ珍しい話じゃない。しかも久遠寺程の超大物作曲家なら尚更」
「絶対に違う…っ!」
「!」


(そう、絶対に違う)


そんな人じゃない。


(久遠寺さんは…)


久遠寺 智里(クオンジ サトリ)という人はそんな酷い事をする人じゃない──!

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