「本当~にごめんなさいね!」
「…い、いえ…私の方こそ…留守中にお邪魔してしまって…」
「そんな事はいいの!いいの…よ…えぇ…」

徐々に小さくなって行く 声の主の視線の先には明らかに不貞腐れている朔がいた。

私と朔の前であれこれ喋っているのは朔のお義母さんだった。


実はあの後──


朔にお姫様抱っこされてベッドに下ろされて、いよいよ私も大人の階段を昇っちゃうんだ──なんてドキドキしながら身を任せていると突然階下から聞こえた物音にふたり揃って固まった。

予定よりもうんと早く帰宅した朔のお義母さんが玄関に揃えて置いてあった靴を見て階下から朔に呼び掛けたのだ。


(…という経緯があって今のこの現状…なのだけれど)

「あの…朔くん…ごめんなさい…」
「は?何謝ってんの」
「だって…わたし…どうしたってお邪魔…しちゃったでしょう?」
「っ!べ、べべ別に邪魔って…邪魔って何のだよっ」
「彼女とふたりで部屋にいたらしたくなっちゃうのはごく自然な事よ?其れなのに…」
「だから別に何もしてねーって!ってかなんか会話が噛み合っていねぇ!」

(おぉ…なんだか新鮮だぁ)

朔とお義母さんが話している処を初めて見て、またひとつ知らなかった朔の顔が知れた。

(お義母さんといる時はこんな感じになるんだな)

私が想像していたよりもうんといい人そうなお義母さんに心の何処かでホッとしていた。

「紅実ちゃん」
「! は、はいっ」

いきなりお義母さんに声を掛けられて少し驚いてしまった。

「これに懲りずにいつでも遊びに来てね。朔くんの彼女って事はわたしの娘でもある訳だから」
「…は…む、娘…?」
「あ、あんたは…!いちいち気が早いんだよっ」

真っ赤になって叫ぶ朔を見てやっと意味が解った。

(そ…そっか…もし朔とけ…結婚、したら…)

そんな事を考えたら朔につられて私まで顔が赤くなった気がした。

「はぁ~でも本当安心したわぁ。朔くんの彼女がこんなに可愛くてしっかりした娘さんで」
「い、いえ…しっかりとは…」
「どうか…朔をよろしくお願いします」
「!」

急にお義母さんが真剣な声でそう云って私に頭を下げたから驚いてしまった。

「朔は…わたしの大切な息子です──ですから…」
「あ…は、はい…」

突然の事だったので私は気の利いた返しが出来なくて申し訳ないなと思った。

「あぁ!あんたはもう、何云ってんだよ、本当にっ」

朔は物凄く厭そうな顔をしながらも、何処か嬉しそうな感じが見て取れたのだった。





「お義母さん、いい人だね」
「…はぁ…時々抜けている事云ったりするけどな」

朔の家を出て私は帰路に着いた。

すぐ近所だからひとりで帰れると云ったのに朔は送ると云ってきかなかった。

(其れにしても…)

結果として行為には至らなかった事に残念な気持ちとホッとした気持ち、其のふたつが入り乱れていた。

「紅実」
「ん?何」

不意に名前を呼ばれ視線を合わせる。

少し朔の瞳が揺れていた。

「…今日は…ああいう事になったけど…其の…また今度…」
「…」
「今度こそ紅実を…俺に頂戴」

少しだけ不安に揺れている朔の瞳を見ながら、私は安心させるように告げた。

「…うん…私にも…朔を頂戴」
「っ!」

そう口にした瞬間の朔の嬉しそうな表情を私は決して忘れる事はないだろうと思ったのだった。

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