幼かった十六澤の言葉が頭に蘇る。 


『おまえになんか教えるかよ』


そう云われた時、私は其の言葉通りの意味を捉えて其処で諦めてしまった。

嫌いだと、大っ嫌いだと思ってしまった。

だけどあの時十六澤は私に歩み寄ってくれていたのだ。

後を付ける私に、素直に自分の事を知って欲しいと云えなかった十六澤の精一杯の歩み寄りだった。


私はあそこで諦めてはいけなかったのだ──


「ご、ごめんなさい…」
「? なんでおまえが謝るんだ」
「だって…あの時…小6の時の…課外授業の時…私がもっと…」
「…おまえ、あの時の事、覚えていたのか?」
「覚えているに決まっているわよ。あの時私、十六澤の事、本当に嫌いになったんだもん」
「…」
「でも…諦めちゃダメだったんだ…もっと食らいついて行かなければ…そうしていたら…十六澤…ひとりで無駄な時間を潰してなんか…」
「…あのさ、ありがとう」
「…え」

そっと肩を引き寄せられ広い胸に体毎包まれた。

「おまえだけだったんだ」
「…」
「俺の事…気に掛けてくれたの」
「…」
「誰も俺の事を気に掛けない。毎日遅くなる俺に義母は『新しく出来た友だちと遊んでいる』という嘘の言葉を信じて安心して俺の本当の気持ちには気が付かない」
「…」
「誰も…本当の俺を知ろうとも…見ようともしなかった」
「…」
「おまえだけだったんだよ…まぁ…そんな貴重な存在を途中で手放してしまったのは俺自身だったんだけど」
「…」
「お互い…子ども過ぎたんだよな」
「…十六…」
「だから俺…あの時からおまえの事…が」
「~~~十六澤ぁ」

過ぎてしまった事を悔やんでも仕方がないのかも知れないけれど…

でもどうしたって十六澤との事は後悔して仕方がなかった。

「…なぁ」
「……ん」

ひとしきり十六澤の胸で泣いた私は掛けられた声に反応した。

「…」
「? …何」
「……紅実…って呼んでもいいか?」
「え」

其の言葉に思わず顔を上げた。

ほんのり頬を染めた十六澤の目が潤んでいた。

「ずっと…おまえの事、名前で呼びたいって思っていた」
「…ばく、じゃなくて?」
「そ、其れは…其の…照れ隠しっていうか…なんというか…」
「…」
「…なぁ、ダメ、か?」
「…いいに決まっている」
「…」
「私は……さ、朔、の彼女、なんだから」
「!」

この状況に紛れて私もずっと呼びたいと思っていた名前を口にしてしまった。

「く…紅実…」
「…朔」
「……なんか…名前、似てないか」
「え」
「改めて口にすると…くみとさくって…」
「…二文字ってだけでしょう、似ているのって」
「…あっそ」
「…」

(嘘)

似ているね…くみとさくって…

(なんだか朔って意外とロマンチスト…なのかな)

普通は女子が考えそうな事を口にするから私が云いたかった事が云えなかった。

ままごとマリッジ
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