思いがけず十六澤と話し込む形になった事に私は内心戸惑いを覚えていた。

「んで?おまえは何処に行ってたんだよ」
「私は図書館だよ。陽生ちゃんと」
「陽生と?…いないじゃん」
「帰りは別々だったの。陽生ちゃん本屋さんに寄るって云って、私はこの後ピアノがあるから」
「ピアノ──まだ習ってんのか」
「習ってるわよ」
「へぇ」
「…」

(なんか…調子狂う)

何故今、普通に十六澤と喋っているのだろう──?

其れは十六澤と知り合ってからほぼ初めての事だった。

(何よ…普通の会話、出来るんじゃない)

そんな事に驚く私がいた。

今まで顔を合わせれば喧嘩腰な会話しかしてこなかった私たち。

其れがこんな風に会話出来る事に薄っすら感動すら覚えている。

(これってもしかして…)

お互い成長した──という事なのだろうか?

小学生の時と違って、普通に話そうと思えば話せるまで成長したのだろうか。

(成長…)

もう一度横目で十六澤をチラ見する。

あちーな、と呟きながらタオルで汗をぬぐう十六澤は座っていても私よりも座高が高かった。

其れに半袖の体操服から覗く腕が真っ黒に焼けていて大人の人みたいな造形をしていた。

そして水筒を口に含む時に上下に動く喉仏。

(…私にはないものばかり)

何故かそんな事を思ったら体がカァッと熱くなった。

(違う…全然)

色白で華奢な陽生ちゃんと比べると、全く違う形をしている十六澤が妙に大人びいていて思わずドキッとしてしまった。

(なんか…知らない人、みたいだ)

今、隣に座っている人が、いつも顔を合わせていがみ合っている子どもっぽい十六澤とは違う人みたいでなんだかもどかしくなった。


「んで、何時からだよ」
「えっ」

急に話し掛けられ、ぼんやりしていた体がビクッとなった。

「んな驚くなよ──ピアノ、何時から」
「あ…4時半」
「そろそろ帰った方がいいんじゃねぇ?」

公園の時計を見ながらそう云った十六澤がベンチから立ち上がった。

「そうだね、帰るよ」

私も立ち上がり、横に置いていた鞄を手にしようとした時不意に視界から消えた。

「え」
「おら、行くぞ」
「ちょ、ちょっと…なに人の鞄持ってるのよ」
「いいから行くぞ、ばく」
「!」

ばく──其れは小学生の時、十六澤が私に向かって呼んでいたあだ名だった。

(何よ…ひょっとして家まで送ってくれるつもりなの?!)

教科書や辞書が入った鞄は其れなりに重い。

自分の荷物もあるのに其れを軽々と持っている十六澤が途轍もなく大きく見えた。


(何よ…何なのよ…急にこんな…)


そんな事があった日から私はおかしくなってしまった──

ままごとマリッジ
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