玄関先で話していた私たちに声を掛けたのは父だった。

「近所迷惑だ。話すならレッスン場で話せ」
「お父さん…」
「歌也も龍も、白熱するのはいいけど一度口から出た言葉は二度となかった事には出来ないからな。其れだけは忘れるな」
「…はい、武也さん」

其れだけを云って父はまた家の中に入って行った。

私と龍は視線を合わせた。

「…話、続けるの?」
「俺は…まだ歌也ちゃんに云いたい事がある」
「じゃあ…レッスン場だね」

そう云って私は地下にある防音室のレッスン場に向かった。

私の後ろを龍もついて来た。


20畳ほどの其の部屋は前方が鏡張りになっていて隅にパイプ椅子が3脚畳んで置かれているだけの何もない空間だった。

部屋の隅っこにパイプ椅子を開いて置いて其処に私と龍は座った。

並んで座ってしばらく、無音の空間が広がっている。

其の静寂を破ったのは龍だった。

「…歌也ちゃんはさ、俺の事、嫌いなの?」
「え」

ド直球の問い掛けをされ、少し戸惑った。

「この前、歌也ちゃんは俺の事を好きじゃないと云って俺の事を受け入れてくれなかったけど…単純に男として付き合えるか合えないかで考えたら…どっち」
「そんなの……付き…合えるよ」
「歌也ちゃん!」
「でも、でもそういう事じゃないよね、付き合うって。嫌いじゃないから付き合って…でも付き合っている内に好きじゃなくなったら別れるでしょう?」
「…」

(あ…また)

龍と向き合って話すとどうしても前の──貴志山くんとの恋愛の事が引き出されてしまう。

好きだった人と付き合って、でもちょっとした事で其の関係は脆くも崩れる経験をした私は、新しい恋に踏み出す事が怖かった。

例え私の事を盲目的に好いてくれている相手でも、其の好意は永遠じゃないと思ってしまうから──

「…怖いの…」
「…歌也ちゃん?」
「好きになって…凄く…凄く好きになって…付き合って、全てを捧げたいと思った相手に捨てられるのは…もう…」
「…もうって…歌也ちゃんはそういう目に遭ったって事?」
「…」
「もしかして──きしやま?」
「! なんで龍が貴志山くんを知って…」
「いつだったか…歌也ちゃんがソファでうたた寝している時に寝言で呟いていた名前」
「…」

(そんな事が…)

あったのかどうかは今は直ぐに思い出せない。

でも龍から貴志山くんの名前が出たと云う事は…

「寝言で…云っていたのか…」
「…」
「相変わらず未練、タラタラじゃない…私」
「歌也ちゃん」

龍がそっと私の肩に触れた。

「…龍」
「歌也ちゃんは俺との事を忘れて、他の男と恋をしていたんだね」
「…」
「其れをさ…こうやって訊いている俺って…なんだろう」
「…りゅ──」

不意に龍の声が震えた気がして俯いていた顔を上げると同時に私の体がグッと龍の腕の中に囚われた。

「なっ!」
「歌也ちゃん、俺を嘗めるな」

龍に囚われた体は其のままギュッと強く抱きかかえられた。

「ちょ…龍、放し──」
「俺はそんな生半可な気持ちで歌也ちゃんが欲しいって云っていない」
「!」
「あの時…たった一度だけ逢ったあの時に感じた歌也ちゃんへの気持ちは全然変わっていない」
「…」
「変だって云われても、おかしいって云われても、あり得ないって云われても、俺がそう感じて想って育てて来た一生一度の恋を例え歌也ちゃんにだって否定されたくない」
「…」
「理屈じゃないんだ、ただ…ただ好きなんだ。俺の全てをかけて、幸せにしたいって思える女の子は今までもこれからも歌也ちゃんしかいないんだ」
「…」
「愛おしくて…堪らない。どうしてこんなにも…自分で自分が解らない位に…歌也ちゃんだけなんだ」
「…龍」

龍の気迫に満ちた告白に私はゾッとした。

王子様の作り方
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