俄かに周りがざわついたような気がした。 

私に声を掛けて来た人を見ると、其処には顔の整った背の高い男性がいた。

(こんな人、会社にいたかな)

そんな事を考えながら周りの様子を見れば、私と其の男性を遠巻きに見ながら何かを囁いている。

聞こえてくる声は『や~カッコいい』だの『なんだ、やっぱり顔のいい女が好きなんだ』と、私にとっては最早聞き慣れた皮肉やひがみが混じったものだった。

(あぁ、イケメンが私に声を掛けたから気に食わないのね)

数多(アマタ)の視線の訳が解り、かえって冷静になれた。

「休憩中にすみません。今逢えたので丁度いいと思って。先日坂野課長から報告を受けた件について詳しくお話が訊きたくて声を掛けたのですが」
「坂野課長?」

其れは私の所属する庶務課の課長だ。

「はい。庶務課で扱っている備品の在庫数の見直しについて──」

其処でようやく合点がいった。

其れは前に恭輔から指摘された在庫数がある備品に関して数の見直しと予算編成を打診された件だった。

(確か課長に報告して其のまま経理課に持ち上がったって訊いていたけれど)

「あの、あなたは経理課の方ですか?」
「あ、すみません。名乗るのを忘れていて。僕は今年入社した経理課の一橋 貢(イチハシ ミツグ)です」
「…」

(この人…胡散臭い)

名乗るのを忘れていて──と云っているけれど、其れは名乗らなくても俺はいい男で有名だから名前は知っているだろう、という過信があった気がする。

(結構いたんだよねぇ…こういうタイプの男)

思わず過去に関係した男リストが浮かんで来て、同じタイプの何人かの男たちがリストアップされた。

「この件について佐東さんから話を訊く様にと云われたので」
「そうですか、解りました。午後一番で経理課に伺います」
「あ、もしなんでしたら今からでも僕個人に話を──」
「午後一番に、経理課に、伺います」
「…そう、ですか。では」

私が笑顔できっぱり云い放った言葉に今まで見せていたにこやかな表情を一瞬崩しながら彼は其の場を後にした。


「へぇ、噂のイケメンくんも杏奈狙いか」

一連のやり取りを見ていた志麻子が面白そうに呟く。

「解り易いイケメンね」
「まぁ、今の杏奈にはあの爽やか作戦は通用しないと思うけど…一応気を付けなよ」
「何?私が心変わりするとでも思っているの?」
「そうじゃなくて、女子社員にって事。まぁ、表立って騒ぐ事はないとは思うけど」
「…」

志麻子の云いたい事は解っている。

昔、私が引き起こした思い出したくもない修羅場に関しての心配をしているのだと。

「黙っていても杏奈は目立つんだからさ」
「忠告、ありがとう」
「まぁ、あの番犬がいればなんて事ないんだろうけどね」
「番犬?」

志麻子の言葉と視線を受けて其方を見ると、遠くから恭輔が何ともいえない顔をして此方を見ていた。

(番犬って…言葉悪いなぁ)

志麻子の悪態にはいい加減慣れているはずだったけれど、愛しの彼氏を犬扱いされた事にはちょっと腹が立ったのだった。

000000a5
★ランキングサイトに参加しています。
其々1ポチずついただけると執筆の糧になります。

恋愛ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村