九重くんが庶務課に来て一週間が過ぎた頃 


「佐東さん」
「はい」

同じ課の米村さんが声を掛けて来た。

「今夜って何か予定とかある?」
「今夜ですか?…いえ、特にはないですけど」
「じゃあ九重くんの歓迎会、参加でいいかな」
「歓迎会、ですか」
「そう。急だったからいつもの居酒屋になっちゃうけど」
「はい、参加します」
「そう、じゃあ現地集合なんで。あ、九重くんは場所知らないから佐東さんが連れて来てね」
「解りました」


(また米村さんが幹事か)

定年間近の米村さんは新年会や忘年会という飲み会でいつも幹事を引き受けていた。

(そういうのが好きな人っているわよね。まぁ、助かるんだけれど)

私は幹事とか主催する事とか、そういった表立った係が苦手だったから例え仕事が出来ない人だとしても米村さんみたいな存在は課には必要な人だと思っていた。


(其れにしても…歓迎会か)

新入社員が入った時にはつきものの飲み会だ。

(…今日は飲むペース、抑えよう)

アルコールに強くない私は酒の席で失敗する事が少なくはなかった。

まだ飲むペースが解らなかった頃、後から人から訊かされた醜態の数々に青くなったものだ。

(万が一酔った勢いで九重くんに何かしたら堪ったものじゃないからな)


そんな事を考えながら其の日は気もそぞろに業務をこなして行った。







「いやぁ…なんだか照れますね」
「? 何が」
「だって佐東さんとアフターファイブを過ごせるなんて」
「ただの歓迎会よ?」

終業後、九重くんと連れ立って居酒屋に向かっていた。

課に残っていた人は私と九重くんを含めて五人いたけれど、何故か他の三人は「先に行ってて」とニヤニヤしながら見え透いた発言をした。

(もう、どうせおじさんたちにありがちな若い者同士をくっつけようというお節介でしょう)


私が在籍する庶務課は課長を含め七人いる。

私と九重くんを除く五人は平均年齢50歳のおじさんばかりで全員既婚者だ。

だから私みたいな女は観賞用か娘みたいな扱いで恋愛対象という目で見たりしていなかった。

敢えて会社側がそういう配慮をしているのかどうかは知らないけれど、私的には仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けたかったので今の職場環境には満足していた。


(…なのに)


「佐東さん、お酒は何が好きですか?僕はビールです」
「…」

九重くんは私にとって平穏なビジネスタイムに突如として現れた異物的な存在なのだった。

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