「はい、住みます──いえ、住まわせてください!」

何とかそう伝える事が出来た。

「不動産屋からちゃんと訊いたか?此処がどういう処か」
「はい、築五十年で風呂トイレ、台所共同だと」
「おまけに」
「曰く付き」
「其れだけ訊いても住むのか」
「はい」
「…あんた、正気か?」
「正気です!もう此処しか私の行く処がないんです!」

思わず力んで大家さんにがぶり寄った。

一瞬怪訝そうな顔をした大家さんだったけれど、次の瞬間、ブハッと笑い声を立てた。

「あんた、何そんなに必死なんだよ」
「…」

先刻までの冷やっこい雰囲気が一気に和らいだ。

(なんか…周りの空気が)

どんよりしていた周りの風景が大家さんの笑い声と共に何故か晴れ晴れとした気がした。

「まぁ、其処まで云うならいいぜ。置いてやる」
「! ありがとうございます」

気持ちのいい空気に包まれて私の暗く淀んでいた気持ちも明るくなった。

(よかった!住む処が決まって)

「んじゃ、中に入りな。色々説明する事があるからよ」
「はい」

大家さんに促されて一緒に家の中に入って行く。

(そういえば)

私は気になっていた事を大家さんに訪ねた。

「あの、大家さん」
「なんだ」
「あの表に掲げられている表札…あれ、なんて書いてあるんですか」
「ありゃ、タタラ荘って書いてあったのを近所の餓鬼どもが悪戯して『ラ』の部分を消して『リ』を書き加えてんだ」
「ラをリに?なんで……って」

声に出してみてようやく解った。

「此処は近所でも評判の化物屋敷だからなぁ。祟りがあるからこっちの名前の方がピッタリなんだと」
「あ…ははっ、そう、ですか」
「此処十年ほどは『タタラ荘』より『タタリ荘』でまかり通ている」
「…」

(直そうとはしないんだ)

大家さんが笑いながら話す言葉に剣呑な雰囲気はなかった。

「お蔭で人が寄り付かなくて静かでいい」と云う大家さんの言葉は本当にそう思っているみたいだった。

タタリ荘のモノノケ
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