「えーっと…確かこの辺…」 

私は不動産屋さんからもらったアパートの資料と携帯をにらめっこしながら夕暮れの街を歩いていた。

不動産屋さんの店主が云った『ただね…』という言葉の後には

『わし…あの場所に行くの、ちょっと遠慮したいので…お嬢さんひとりで行ってくれるかなぁ』

というのが続いた。

どうやら店主は極度の怖がりで、曰く付きと呼ばれている物件に近づく事すら厭だという事らしい。

(まぁ、解り易い地図が付いているから大丈夫だと思うけれど)

一般的には不動産業者として其の態度はどうなのか、と云いたくなる対応かも知れないけれど、私にとっては破格の物件を紹介してくれたありがたい人という印象が強かったので、ひとりで行く事ぐらいなんでもない事だった。


(あ)

しばらく歩くと、先刻寄った稲荷神社が見えて来た。

(なるほど…此処に出るのね)

初めて来た見知らぬ街を彷徨っている私は、何処か冒険しているみたいなワクワクとした気持ちになっていた。

(神社を通り過ぎて…角に郵便局があって)

地図を頼りに歩いて行くと、段々と鬱蒼とした風景になって行くのに気が付いた。

(…なんだか…お店とか住宅とかが少なくなって来た)

夕暮れという時間帯も手伝って、いよいよ雰囲気はおどろおどろしいものになって行った。

すると

「あ…」

鬱蒼とした木々が蔓延る小道を抜けた先に二階建ての古い木造建築が姿を現した。

「もしかして…此処?」

一見普通の家。

アパートらしい佇まいではなく、ごく普通の古い一軒家だった。

門の塀に表札みたいな木の板に名前が書かれていた。

「…タタ…ラ…?リ?荘」

其処には【タタ】の文字の次に書かれている文字がよく解らない。

不動産屋さんから貰った資料には【多々良荘】と書かれている。

「多分…タタラ荘…なんだよね」

そう呟いた次の瞬間

「そうだ、たたら──だ」
「!」

急に後ろから聞こえた声にビクッと体が撓った。

慌てて振り向くと、其処には背の高い若い男の人が立っていた。

(ぅわぁ…イケメン)

だけど其の男性は少し普通ではない恰好をしていた。

(着物…じゃない…チャイナ服?)

着物みたいな襟合わせの裾の長いシャツを着ていて、和服みたい、だけどチャイナ服っぽい、なんだかひと言では形容しがたいエキゾチックな服を纏っていた。

「あんた、吉国さん?」
「…へ?」
「永友不動産から電話あったんだけど」
「あっ、はい!私が吉国 真優(ヨシクニ マユ )です!」

私は慌ててお辞儀をした。

(この人…もしかして)

「俺が大家の多々良(タタラ)だ」

ゆっくりと顔を上げると、何ともいえない表情をしている大家さんと目が合った。

「あんた、本気で此処に住むのか?」
「え」

意外な問い掛けに一瞬戸惑い、直ぐに返す言葉が出て来なかった。

タタリ荘のモノノケ
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