2年前、お母様の父上──つまりヴォーリア国王が崩御され、お母様の兄上が国王として即位する際に行われた戴冠式で私は初めて従兄妹たちと顔を合わせた。

従兄妹──といってもみんな私と随分歳の差があったので気軽に話をする程打ち解ける事はなかった。

そんな中でも第3王子のイグナーツだけは変に私に馴れ馴れしく、常に私の周りをうろついていた。

『僕には下に弟妹がいないからさぁ、アメリアの事、妹の様に可愛くて仕方がないんだよね』

そう云っていた彼の行動は私にとってはあまり好ましいものではなかった。

ヴォーリア滞在中、ほとんどの時間をイグナーツと過ごし、散々子ども扱いされた事は私にはいい迷惑だという記憶しかなかった。

ただ迷惑だと思いはしたけれどイグナーツに対しても嫌いという感情はなく、ただ少し苦手な人──という印象の持ち主だった。



「イグナーツ様とは顔見知りだったようですな、姫様」

ジョバン教授が頃合いを見て私に話しかけた。

「えぇ。従兄妹ですから存じ上げています」
「成程。では次に此方の先生の紹介を──」

そう云いながら視線を移した先生につられ私の視線も其方に向いた。

先刻までイグナーツの存在で影になってしまっていたけれど、改めて其の男性を見つめると何故か不意に目を逸らされてしまった。

(え…?)

「姫様、此方はデュシス国の第2王子、ザシャル様でございます。ザシャル様には歴史を担当していただきます」
「…デュシス国?」

デュシス国は海を渡った西に位置するちいさな国。

主に職人たちが集まり物作りが盛んな創作国で、ノーティア国との間では貿易関係において一番の友好国だった。

しかし其の昔、ノーティア国がデュシス国を武力をもって支配していた暗黒時代があったと訊いた事があったけれど…

(…其れは大昔の話、よね)

少しだけ躊躇したけれど、私は思い切ってザシャル王子の前に歩み寄った。

「…あの、アメリアです。どうぞよろしくお願いします」
「……此方こそよろしくお願いします」

若干目線の合わない仕草で挨拶と握手をした。

(! 冷たい手)

握手した其の手はゾッとする程に冷たかった。

(…なんだろう、この人)

イグナーツの軽薄で馴れ馴れしい印象とは正反対のザシャル王子の無機質感が何故か気になってしまった私だった。

Schwarz Mythos
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