『おーい、アーリァ!』

「…?」

勉強時間を終え、自室に向かうために歩いていた。

ふと耳に届いた声に視線を向けると


『こっちこっち!』

「…」

開け放たれた窓から外を覗くと、中庭の花壇の前にフェルがいた。


『なぁ、こっち来てみ!いいもの見せてやるよー』

「…」

フェルことフェルディナントは外務大臣の息子で私と同じ歳の10歳。

生まれた時から顔見知りで物心ついた頃から常に傍にいた幼馴染みだ。

フェルは私の事を『アーリァ』と愛称で呼ぶ。


(いいもの…?)

フェルの言葉に少しだけ興味を惹かれ、私は方向転換して中庭に続く道を歩いて行った。





「こっちこっち!」

フェルの呼び掛けに誘われ中庭まで来た私。

「…いいものって何?」
「ふふふっ~いいものとは──これだぁ!」

そう云ってフェルが私の目の前に差し出した掌の上には、ウネウネと身をくねらせているミミズが数匹いた。

「…」
「……あれ…?驚かないのか?」
「…」
「キャーとかイヤーとかって驚かないのか?」
「…これがいいもの?」
「そう、いいもの」
「全然いいものじゃない」

フェルがいいものと称して見せたミミズは私にとってはいいものではなかった。

はぁとため息をひとつつくと

「アーリァは阿呆か。ミミズは花壇の土をふかふかにしてくれる優秀な奴なんだぞ!」
「…」
「ミミズのいる土は栄養があっていい土だ。そんな土で育てられる花や野菜は綺麗だし美味いじゃないか!」
「…」
「だからミミズはいいものなんだよ、解ったか!」
「………解ったわ」
「そっか、解ったか!よしよしいい子だぞーアーリァ」
「…」

土が付いている手でガシガシと頭を撫でられた。

少しだけ汚れて厭だなと思ったけれど、洗えば済む事だから特に何も云わなかった。

(でも…そうか)

ミミズがいいものだと云ったフェルの言葉はスッと私の胸の中に入り込んだ。

そういう考え方をすれば確かにミミズはいいものだ。

(うん…フェルの云う通りね)

同い歳なのにフェルは私が知らない、気が付かない事をよく知っているなと思った。

(でも勉強は苦手だって云っていたわよね)

私の知らない事を沢山知っている癖に勉強が出来ないだなんてどういう事なのだろう。

そんなフェルは私にとって不思議な存在のひとりだった。

Schwarz Mythos
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