この人にはもっと色んな表情があるのだろうと思った。

そう思ったら其の全ての表情が見てみたいと思った。


「あのさ、運命の人って、何を根拠に云っているのかな」
「根拠って」
「君と俺が知り逢ったのは今日が初めて。ほんの半日ほどの事で何をもって運命というのかな」
「だって私をうさぎだと思ったでしょう?」
「え?」
「イメージで選んだカップがピーターラビットでした」
「…あぁ」
「どうして私をうさぎだとイメージしたんですか?」
「どうしてって」
「私がうさぎ年生まれで、名前が美しい兎と書いて『みと』って読むのを知っていた訳じゃないのに」
「みと?」
「はい。両親が無類の兎好きでうさぎ年の子どもが欲しくて計画して私を生んで名前も兎に関した名前を付けたって」
「…はぁ」
「其れに私が寂しがり屋で常に傍に人がいないとおかしくなってしまうって…そんなの知っている訳じゃないのにどうして」
「…」

そう、この人は私の事を解ってくれた。

私を見ただけでうさぎだとイメージした其の感性はきっと私の事を理解して幸せにしてくれる人だからこそのものだと確信した。

「あなたなら私を幸せにしてくれるはずです」
「…」
「だってあなたは私の運命の人なんですから」
「…」
「だから私は──」
「ストップ」
「!」

目の前に大きな掌で遮られ思わず口を閉ざした。

「あのですね、はっきり云います」
「はい」
「俺が君をうさぎとイメージしたのは、君の目が赤かったから」
「………え」
「注文を取りに行った時に見た君の目が赤かったから其れを見てうさぎみたいだとイメージした。ただ其れだけの事」
「…」
「うさぎ年生まれだとか、名前が兎だろうが、そういうのは全く関係なく、ただ、其れだけの理由であのカップを出したんです」
「…」
「なので君が考える様な運命の人とかってロマンチックなものはありません。以上」
「…」
「解ったら其れを飲んで帰りなさいね」
「…」

其れだけを云うと店長はカウンターから出て店内のテーブルに椅子を掛けて行った。


(運命の人じゃない)


そうハッキリ云われた。


云われたのに…


(なんで私…落ち込んでいないんだろう)


彼が云った様に私にうさぎをイメージしたカップを出した理由は大した事ではなかった。

私の事を解って出されたものではなかったと知ったのに…


(私…其れでも…)


「好きです!」

「!」

静かな店内に私の声が響き渡った。

モップを手にしていた店長が驚いた顔をして私の方を見た。

「其れでも私、あなたの事が好きです!」
「…」
「傍にいたいんです!」
「…」
「だから私を此処で働かせてください!」
「…」

私は其の場で深く頭を下げた。

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