ホテル代を節約するために野宿でもしようかと考えた。 

(あ…でもまだこの時期の夜は寒いかな)

春先の花冷えする事を考えると憂鬱になった。

「う~ん……此処なら…もしかして」
「!」

うんうん考え込んでいる頭に店主の言葉がハッキリと聞こえた。

「何処かありました?!」

私は喰いつき気味に店主に迫った。

「や…でもねぇ、今時の若い子にはちょっとキツい物件かなぁ…と」
「というと?」
「築五十年の木造二階建て。六畳一間部屋で風呂トイレ台所共用」

(…ん?其れってまるで…)

「でもって家賃はなんと破格の月二万円!」
「えぇ、本当ですか?!」

(安い!滅茶苦茶安いんじゃない?!)

先輩と同棲するにあたって私が算出していた住居費よりも遥かに安い金額だった。

「…ただねぇ」
「決めます!」
「へ」
「其処、是非紹介してください!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいって。話は最後まで訊いて」
「…はっ」

(いけない、興奮し過ぎてしまった)

思わず腰を浮かして店主に身を乗り出していた事に気が付き、私は慌てて椅子に座り直した。

「ただね、此処……曰く付き、なんだよね」
「いわくつき?」
「そう」
「というと…事故物件とか…そういう事ですか?」
「いや、事故物件ではないよ!うん、其れは保証する」
「じゃあ」
「事故物件ではないんだけどね……出るって噂があって」
「出る?」
「つまり……幽霊…的な」
「…」

(事故物件ではないけれど、幽霊的なアレが出る?)

自慢ではないけれど私は霊感が全くない。

幽霊の類や金縛りといった現象にも今まで一度も遭った事がない。

「古いし今時風呂トイレが共同だし曰く付きだし…これじゃあいくら家賃が破格でも──」
「お願いします」
「へ」
「其処、是非紹介してください」

元々田舎住まいで実家だって古い木造家屋だ。

お風呂やトイレが共同というのは慣れればなんとかなると思ったし、曰く付きは私には問題がなかった。

何よりも家賃が安いというのはやっぱり今の私には魅力的だった。

私の気迫に少し怯んでいた店主だったけれど「じゃあ大家さんに打診してみるね」と云って、電話を掛けに行った。

(どうか決まります様に!お願いします~~)

物件の大家さんとの電話のやり取りが耳に入りつつも、私は一心不乱に祈った。

(何も文句は云いません!だからどうかどうか~~)



「決まりましたよ」
「……え」

目を瞑って俯いて祈っていた私の肩がポンと叩かれ、ハッとした。

「今日からでもいいそうですよ」
「! 本当ですか?!」
「はい──ただね…」

本日三度目の店主の『ただね…』を訊いて、嬉しかった気持ちが少し揺らいだ。

何を云われるのかと思わず構えてしまった私だった。

タタリ荘のモノノケ
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