夢だったらよかったのにと思う出来事に遭遇したのはこれが初めてだったかも知れない。 


「わぁぁぁー歌也ちゃん、出て行っちゃったよー!」
「え」
「これ…玄関のシューズボックスの上に置手紙があって」
「…」

朝起きてリビングに行くと半べそをかいた裕翔と、一見冷静さを装いながらも置手紙を俺に渡す時に手が震えていた浬がいた。

そしてキッチンには恐らく歌也ちゃんの代わりに朝食の支度をしている武也さんが無言で立っていた。

【しばらく家を空けます。 歌也】

其れだけが書かれた手紙を俺は何度も繰り返し見つめたのだった。















「歌也ぁ、これ、美味しい~」
「そう?よかった」

私の作った即席朝食をニコニコしながら食べている涼花の顔を見ると、なんだか少しだけ安心した。

「しっかし…明け方にいきなり訪ねて来るからビックリしたよ」
「…ごめんね、涼花」
「ううん、其れはいいんだよ、事情が事情だからね」
「…」

みんなが寝静まっただろう明け方、始発に合わせて私は家を出た。

誰にも見られず、こっそりと。

そして向かった先はひとり暮らしをしている涼花のマンションだった。

いい処のお嬢という出自の涼花はひとりで住むには広すぎるマンションに住んでいた。

其れを私は今回も利用したのだ。

「好きなだけいていいよ。ご飯作ってくれるなら尚更遠慮なんかしなくていいから」
「うん、ありがとう…こんな時ばかり利用しちゃってごめんね」
「利用だなんて~そういう堅っ苦しい事考えないの」
「…本当…ありがとう」
「…」

高校生の時から涼花はひとり暮らしをしていた。

小学生の時、初めて涼花の実家に遊びに行った。

やたらと大きなお屋敷にはお手伝いさんと呼ばれる人がいるだけだった。

涼花がひとり暮らしをするまでに何度か遊びに行ったけれど、結局涼花の両親に会う事は一度もなかった。

ふたりとも仕事で忙しいのだと云った涼花からは寂しさという感情が窺えなかった。

涼花には涼花の、私の知らない家庭の事情というものがあるのだろうと思う。

だけど涼花は私に其れを教えない。

だから私も無理に訊いたり知ろうとはしなかった。

高3の時、貴志山くんにフラれた私は今と同じ様に涼花の元に逃げ込んだ。

父の事でフラれた私は其の時、家にいたいと思わなかったから。

父には何かと理由をつけて三日間ほど涼花の家に居付いていたのだった。


「しっかしぃ…まさか新入りくんが歌也の王子様だったなんてね~」
「…え」

不意に涼花の口から出た言葉に反応した。

涼花には家を出て来た理由を話した。

厄介になるのだから其の理由を話すのは当然だと思ったから。

私が泣きながら話す事を涼花は最後まで静かに訊き、受け止めてくれた。

いつもそうだった。

貴志山くんにフラれたあの時も、やっぱり涼花は黙って私の話を訊いてくれていたのだった。

王子様の作り方
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