『武ちゃーん、龍、来てるの?』

「!」

いきなり玄関から聞こえた甲高い声にドキッとした。


「もう佳澄はいつも声がデカいな」
「何を今更、あっ、龍~来ていたんだねー」
「…ご無沙汰しています、佳澄さん」

(え、何、お母さんも知っているの?)

突然の光景にしばし呆気に取られている私。


ちなみに今やって来た佳澄(カスミ)なる人物は私の母だ。

武ちゃんというのは私の父、武也(タケヤ)の事で母はいつも父をこう呼んでいた。

実は父の暗黒時期を救った幼馴染みの女性というのが私の母の事だった。

父はゲイだったけれど母性本能に溢れた人で、常々自分の遺伝子を受け継いだ息子が欲しいと願っていた。

そんな父のもうひとつの夢を叶えたのが母だった。

男勝りでバリバリのキャリアウーマンだった母と父の間でどのような流れがあって私が生まれたのかは定かではないけれど、例え生まれたのが父が望んでいた男の子ではなかったとしても父は娘の私を可愛がり、私の為に母と夫婦として籍を入れた。


しかし父と母の間には恋愛感情は存在していなかった。


母はゲイである父の恋愛沙汰には一切口を挟まなかったし、父も母の事を妻という意識ではなく、ただ幼馴染みで私の母親という気持ちで慈しんでいるに過ぎなかった。

娘の私には到底理解し難い関係ではあるけれど、何故か父と母はそんな関係で今まで上手くやっていたのだ。



「家の前にトラックが止まっていたからもしかして~と思って来てみたんだけど──あ、歌也。お手伝いしているの?」
「バイト代出すからって…渋々ね」
「あははっ、そっか、折角の休日なのにご苦労様」


母は私たちとは一緒に暮らしていない。

近所のマンションに部屋を借りて其処でひとり暮らしていた。

世間的に見れば別居──という形式になるけれど、母は仕事が忙しかったし子育てや家事といった労働から解放されるこの勝手気ままで自由なひとり暮らしが大層気に入っているようだった。


「其れよりお母さん」
「ん、何」
「あの…知っているの?あの子の事」
「え、あの子って…龍?」
「そう」

引っ越しの手伝いを中断して、休憩用のお茶を淹れるために移動したキッチンで母とふたりになったのをいい事に気になっていた事を訊いてみた。

王子様の作り方
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