老舗料亭を出て、祐輔さんの車に乗せられて連れて来られたのは、十一年前のあの日に入ったラブホテルだった。 


「此処、まだあったんですね」
「うん、中々繁盛しているみたいで安心したよ」

そんな軽口を叩きながらも私の胸中はドキドキし放ちだった。


『…結ちゃん…あの日をやり直そう』


(あの日をやり直そうって…)

一体何の事だろうと思ったけれど、此処に連れられてようやく合点がいった。


「結ちゃん」
「あ」

繋がれていた手をグイッと引っ張られ、其のまま部屋の中央に置かれていたベッドに押し倒された。

「…」
「ゆ…祐輔、さ」
「愛しているよ、結子」
「っ」

押し当てられるだけのキスをされて、一気に体温が上がった。

二度三度繰り返される軽いキスは次第に熱を帯びた深いものになって行き──

「んっ」
「はぁ…ふぅん」

お互いの舌が擦れ合い、甘い蜜を渡し合う濃厚な行為に身も心も焦がれて行った。


「はぁ…結ちゃん…いい?」
「…」
「結ちゃんを…結ちゃんの全てを僕のものにしても…」
「…」

うっとりする様な見目麗しい顔で甘く囁かれる一言一句が私の中に沁みて広がって行く。

「結ちゃん…」
「…はい」
「…」
「私の全てを…祐輔さんで…いっぱいにしてください」
「~~っ」

恥ずかしがりながらそう呟くのが精一杯で…

其れからの事はよく覚えていなかった。


ただ祐輔さんが「まさか処女のままだったなんて…」と言葉を詰まらせながら、私の発する喘ぎ声や身動ぎ、そして初めての行為に対する恥じらう姿に感激して泣いてしまった事はよく覚えていた。



私は28歳にして、女として生まれて来た悦びを愛する人の手によって知ったのだった───










「えぇっ、け、結婚?!」
「はい…なんだかそういう話になりまして…」


数週間後、私は直属の上司に鈴木祐輔さん事、祐輔=サージェスト氏と結婚してアメリカに渡米する事になった旨を報告した。

「いやはや…まさか佐崎さんがあのサージェスト氏の恋人だったとは…驚いたよ。しかも結婚かぁ…流石ヤリ手社長はこういった事も素早い」
「…はは」

私はもう引き攣った顔で笑うしかなかった。


祐輔さんと再会したあの日、ようやく結ばれた祐輔さんに其の場でプロポーズされた。

勿論私に断るという選択肢はなく泣きながらプロポーズを受けた。

そして其の瞬間から祐輔さんの行動は早かった。

翌日には私の両親の元に出向き結婚の挨拶をして、一週間後には双方の親の顔合わせという食事会が開かれ其のまま入籍に至った。

結婚式はこれからアメリカに行ってから挙げるけれど、私は正真正銘祐輔さんの妻になった。


(本当…あっという間の出来事でもう、何が何だか…)


ただあまりにも急すぎる話だったので、せめて仕事の引継ぎが終わるまではアメリカ行きを伸ばしてもらう事にしていた。

其の間は祐輔さんと離れて暮らす事になるのだけれど

(十一年離れていたんだもの…数ヶ月なんてあっという間だわ)

なんて思う余裕が出来ていた事に私自身が驚いたのだった。




「ちょっとぉ訊いた?!佐崎さんの話」
「訊いたわよー超玉の輿婚だって噂、持ちきりだもん」
「くぅぅぅ~やっぱりババァでも顔が良ければ金持ちのイケメンと結婚出来るのね!世の中不公平っ」
「…あたし、秘訣とか訊いちゃおうかな」
「何よ、いきなり」
「だってぇ乗りたいじゃん、玉の輿」
「そりゃそうだけどさぁ──」


(…)

またタイミング悪くトイレで後輩社員たちの秘密トークを訊いてしまっている私。

(秘訣なんて…何もないんだけどな)

ただ私は一途に想っていただけだ。

忘れたくても忘れられなかった人を何年も何年もただひたすらに。

其の果てに訪れたエンディングがたまたま其れだったという話。

(まぁ、参考にはならないわね)

後輩社員たちのいつもの会話をBGMに、こんな事もいつかは懐かしく思う日が来るのかなとトイレの個室の中でクスリと笑った私だった。





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