「──だけどあの日…結ちゃんに告白されて付き合い始めて…初めてホテルに行った日」
「っ」

其れは私にとっては辛い想い出だった。

私の何がいけなかったのだろうと、この十一年間悩み考え、ずっと私を苦しめて来た記憶だ。


「あの時は本当にごめんなさい!」
「!」

彼は畳に額を擦り付ける程に土下座して謝った。

「ゆ、祐輔さん、止めて」
「いや…僕は…あの時の僕を赦せない!愛する君を放って逃げ出した意気地なしの自分自身が…!」
「…」
「僕は…怖くなったんだ…」
「え」
「君が…本当の君が余りにも美し過ぎて…僕なんかが手に入れていい女性じゃないのだと急に怖気づいてしまって」
「…何…其れ」
「僕は僕に自信がなかった…今のままの僕じゃ君には釣り合わないと…もっと、もっといい男にならなくてはいけないと…だから僕は…アメリカに渡った」
「!」
「母に全てを話し、アメリカで…アメリカの父に逢いたいと願った。母は僕の想いを受け取ってくれて母が知っている限りの父に関する情報を教えてくれた──そして僕は渡米して父に逢った」
「…」
「自分に自信が持てるようになる最初のきっかけは父との事をはっきりさせる事だと思った。だから逢った。父から母の事も僕の事も知らないと冷たい態度を受けるかも知れないと思ったけれど、其れでも逢わないといけないと思ったんだ」
「…祐輔さん」

其れはとてつもない勇気がいったと思う。

あの時、祐輔さんは自分を変えたいと思い、そんな葛藤の中にいただなんて当然当時の私は何も知らなかった。


「だけど勇気を出して逢ってよかった。父は母の事を忘れていなかったし、お腹の中にいた僕の事も凄く気に掛けていたんだ」
「そうなの?」
「あぁ──其れ処か父は母を妻に迎えるために努力していたと知った」
「え」
「父は母を心から愛していたんだ。母を妻に迎えるためにアメリカ人の奥さんと子ども達に解ってもらうために何年もかけて説得して来たんだって」
「…」
「離婚に関する条件が破格過ぎて父は自分の会社や資産、全ての権利を奥さんや子どもたちに譲渡して身ひとつになっていた」
「…そんな」
「そんな父の気持ちを母に伝えたら…どんなendingを迎えたかは解るよね?」
「ハッピーエンド、ですね」
「そう。母も裏切られたという恨みに似た感情で長年押し込めて来た父への愛情を解放する事が出来た。其れでふたりは結婚して、僕たちはアメリカに移住したんだ」
「…よかった」

其れは心からの言葉だった。

たとえあの日、彼が私の元からいなくなり私がどれほど傷ついたとしても…

(全ての事が解った今、心から素直によかったと云える)


そんな私の様子を見ていた祐輔さんは何ともいえない表情を浮かべ、そっと私の掌を握りしめた。

「あ」
「…アメリカに渡った僕は父と協力して一から事業を始めた。いつか…いつか胸を張って結ちゃんを迎えに行けるようになるまで頑張ろうと思って」
「…っ」
「何年かかっても僕は絶対に結ちゃんを手に入れると──其れだけを原動力に此処まで頑張って来た」
「~~~も、もぅ…そんなの…もし私が…他の人と付き合っていたり…結婚していたらどうするつもりだったんですか」
「…其れは其れで仕方がない事かな…と。結ちゃんが結婚していたら…ちゃんと潔く諦めるつもりだった。だから結ちゃんと逢う時はきちんと調べて──其れで今のこの状況があるんだよ」
「…もう…もう…っ」

抱き寄せられた彼の胸を軽く叩いた。

「でもやっぱり結ちゃんは僕が思っていた通りの女性だった」
「~~~っ」
「僕を見かけで判断しなくて…色男に迫られても簡単になびく様なbitchじゃなかった」
「こ、言葉、悪いですよ!」
「ごめん…でも本当嬉しいんだ…ありがとう…あんな僕なんかをずっと好きでいてくれて」
「~~~あんな僕って…充分素敵でした…好きです…もうずっと、ずっとずっと…あの時から…あなただけが」
「うん」
「私の前からいなくなって…憎んだ事もあったけれど…」
「うん」
「だけどどうしても……嫌いになんかなれなかったぁぁぁぁ」
「~~結ちゃん」


きっと私は何度でもこの人に恋をする。


例え昔以上に姿形が悪い方になっていたとしても。


私は鈴木祐輔という人其のものの虜になってしまっていたのだから。


出逢ってから付き合い、別れた時間はとても短いものだったけれど、其の短い時間の中でこれほどまでに心を奪われた人はもう私の前には現れないだろう。


「…結ちゃん…あの日をやり直そう」
「…え」

耳元で囁かれた甘い言葉が私の心に浸透した瞬間、気持ちは十一年前のあの日に遡っていた。

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