其れから私と薫さんがマンションから出て行く日はあっという間に来た。


──といっても


「まさか…此処に引っ越す事になるなんて」
「まぁ、僕は大体想像がついていたよ」


新しい住居を蒼さんが探してくれるという話を其のまま鵜呑みにして任せていたら…

「どうだ、満足だろう」
「あ、蒼さん」
「いやぁー蒼さんもいい仕事するなぁ。まさか下の階に空き部屋があっただなんて」
「いっちゃん」

そう、蒼さんが用意してくれた薫さんと私の新居は今まで住んでいたマンションの部屋の真下の部屋だったのだ。

(でも確か下の階って入居者いたような…?)

「ルイカ、何も考えちゃダメ」
「え」

こそっと薫さんに耳打ちされてドキッとした。

「此処に住んでいた人、もっと広くていい処に越して行った」
「へ?」
「僕、引っ越しの挨拶されたから。其の後直ぐにリフォーム作業していたから…本当蒼さんって仕事が早いよね」
「…」

そうか…

(うん、蒼さんだもんね)

私みたいな庶民には解らない工作をサクッとやっちゃうんだろうなと、そう思う事にした。


其れに


「ルイカ、何かあったら直ぐに上に来るんだぞ。俺が助けてやるからな」
「ありがとう、いっちゃん。でも大丈夫だから」
「おまえ、たまにはオレ様の飯を作りに来い。あと風呂掃除に洗濯に」
「あの、蒼さん、そういうのはもう朱里さんが完璧にやっているでしょう?」

私の視線の先には朱里さんがいた。

相変わらず少し控えめに佇んでいて、でも程よい距離感を保ちつつ蒼さんや私の事を優しい眼差しで見つめていた。

(確かに此処でよかったかも)

薫さんとふたりきりにもなれるし、いっちゃんや蒼さんたちと離れ過ぎない距離感のこの新居でよかったなと思った。

「よーし今日はお祝いだ!パーティーするぞ、パーティー!」
「いっちゃん、はしゃぎ過ぎだよ」
「樹、祭り好きだから。任せればいい」
「そうなんですか?其れは知らなかったなぁ」

まだ私の知らないいっちゃんがいた事に少し新鮮な気持ちになりつつも、其の日は夜遅くまで愉しい時間を過ごしたのだった。

















「はぁ…愉しかった」
「ん…僕も食べ過ぎた」


引っ越し祝いのパーティーを終えて数時間。

この家で一番広い寝室に大きなダブルベッドを置いて私と薫さんは其処で寛いでいた。

「ふふっ、薫さん思ったより食べていませんでしたよ?美味しい物厳選してずっと黙々と食べていましたもん」
「僕にしては食べた方だったんだけど」
「じゃあ何か運動しましょうか?軽くストレッチとかすると苦しくなくなるかも」
「運動は今からするからいいよ」
「え、何の──  っ!」

いきなり薫さんが私に跨って強引なキスをした。

「ふぅっ…んっ」

激しく口内を蠢く薫さんの舌遣いに直ぐに体が反応して来て、私はすっかり気持ちが切り替わってしまった。

「するでしょう?記念すべきこの家での初夜だもん」
「か、薫さん…」
「これからずっと…したい時に出来るよ?ずっと一緒に居るんだから」
「…」

次々に囁かれる薫さんの甘い言葉に身も心も蕩けきっていた。

「愛しているよ、ルイカ」
「あ…っ、私も…薫さんを…愛しています」

息も絶え絶えに心からの言葉を紡ぐ。

何度も何度も私の中を行き来する温かな感触にどうにかなってしまいそうでただただ悦びしか感じなくなっていた。





──田舎から出て来た世間知らずの私がこんな素敵な未来を歩む様になるとはほんの少し前までは予想だにしなかった


全ては運命──という言葉でしか説明出来ない事ばかりだけれど、私は私に与えられた運命をドンッと受け入れて、これからも愛する人の為だけに生きて行きたいと思ったのだった。









蒼い樹が薫る
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