1階から聞こえた大きな音。

其れに続く大きな声に私はとても驚いた。


『ルイカァァァァ!』


「!」


嘘…


この声は…


「か、薫さんっ!」

間違えるはずがない。

聞こえたのは確かに薫さんの声だった。

(なんで?幻聴?…ううん、違う…!)

私は急いで階段を下り、声のした方に向かって走って行った。





「ルイカ、何処?!ルイカッ」
「お静かになさってください」
「静かになんて出来ない、ルイカが此処にいるって解っているんだから」

目に飛び込んで来た光景は、玄関ホールで薫さんと朱里さんが攻防している処だった。

「薫さん!」
「!」

私は思わず叫んだ。

其の声に気が付いた薫さんは止める朱里さんを押しのけて私の元に駆け寄って来た。

「ルイカ!」
「あっ」

ギュッと力強く抱かれた。

其の温かな感触とそして

(薫さん…震えている?)

微かに感じる震え。

其れを知った私はどうにかなってしまいそうなくらい心がズキンと痛んだ。

「ルイカ、ルイカ…」
「薫さん…」

抱きしめられる事数秒、其の熱い抱擁は突然聞こえて来た怒号によって離された。

「何やってんだ、薫っ!」

「「!」」

そう、其れは蒼さんの怒鳴り声だった。

私を抱きしめたまま薫さんは蒼さんを睨みつけた。

「…蒼さん、何ルイカを攫ってるの」
「其の前におまえ、どうして此処が解った」
「…」
「オレとこいつが此処にいるってどうして解ったんだ」
「…」
「答えろよ!」
「…訊いた」
「あぁ?」
「ルイカを探してって…頼んで…訊いた」
「──薫、おまえ」
「…」

薫さんが俯き加減で歯を食いしばっているのが解った。

(薫さん…頼んだって… 一体誰に?)

私を見つけるために行動した事が薫さんを苦しめているように見えた。


「マジかよ…おまえ、あんだけ嫌っていたのに」
「…」
「其処までおまえが行動を起こしたという事は──本気なんだな」
「…ルイカは…渡さない」

(えっ)

俯いていた顔を薫さんが上げ、真っ直ぐに蒼さんを見て云った。

「ルイカは誰にも渡さない!例え蒼さんにだって…ルイカは…ルイカは僕のっ」
「…」

(か、薫さん…!)

薫さんの腕に抱かれながら訊いた其の言葉が冷え切っていた私の心と体にじんわりと沁み込んで行った。


しばしの間、ホールに静寂が漂った。

だけど其れを破ったのはやっぱり蒼さんで

「──しばらく時間を与えてやる」
「え」
「おまえの其の行動を称えて涙花に全てを話すだけの時間を与えてやる」
「…」

(私に全てを話すって)

蒼さんが薫さんに云っている事は私にはよく解らなかった。

私が首を捻っている間にも薫さんと蒼さんの間では話が進んで行って

「おまえが全てを涙花に話して、其れでも涙花がおまえを選ぶのだとしたら…其の時は綺麗さっぱり諦めてやる」
「…蒼さん」
「以上だ──オレは仕事に戻る」

其れだけを云って蒼さんはスタスタと私たちの元からいなくなってしまった。

其の光景をただ茫然と見ているだけしか出来なかった私はこれからどうしたらいいのか戸惑っていた。

「…えっと」
「涙花様、わたくしも家事の続きをさせていただきますのでどうぞお部屋にてお話し下さい」
「朱里さん」

朱里さんは深くお辞儀をして、そしてやっぱりスタスタと私と薫さんの元からいなくなってしまったのだった。


「…」
「…」

残された私と薫さんは、静々と顔を見合わせた。

「ルイカ、蒼さんに酷い事、されなかった?」
「え、あ、うん…されて、ないです」
「よかった…本当に」
「!」

再びギュッと抱きしめられた。

そして耳元で囁くように云われた。


「僕、ルイカに話したい事がある」

蒼い樹が薫る
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