一夜経ってようやく体が元通りになり、喋る事も思考もまともになって来た。

これからどうしたらいいのか、私はどうするべきなのかを考えた。

(結局は蒼さんに解ってもらうしかないんだ)

此処が何処だか解らないし、仮に此処から脱出したとしても蒼さんの部下だという朱里さんに直ぐ捕まって連れ戻されてしまう事は解り切った事だった。

(此処は変に抵抗しないで時間をかけても蒼さんに解ってもらうしかない)

多分、蒼さんがこんな強引な行動に出たのは私が弱いからだ。

薫さんとの事で諦める事も突き進む事も出来ずどっちつかずでグジグジ塞ぎ込んでいるから見ててイライラしたんだろうと思うから。

(でもやっぱり私は…こんな状況になっても薫さんの事を)


「涙花様、どうされました」
「え」
「スープが零れてしまっています」
「あっ!す、すみませんっ」

食事の席で朱里さんが作ってくれたスープをすくいながらボーッと考え事をしてしまった。

口に運ぶ前にスプーンからスープは零れてしまっていた。

「お口に合わないようでしたら別のものを用意しましょうか?」
「いえ、このままで。あの…蒼さんは?」
「蒼様は一足早くに食事を済まされ、今は書斎に籠って仕事をされています」
「あ…そうですか」

(そうか、此処にもマンションの部屋のように引きこもって仕事する部屋があるんだ)


前に少しだけいっちゃんから訊かされた事があった。

蒼さんの部屋は会社の業務を一手に引き受けられるような設備が完備されていて、其処で蒼さんは部屋から出る事無く様々な業務を手掛けているのだと。

(林宮寺ってグループの一族のひとりって云っていたよね)

蒼さんの実家である林宮寺という財閥だとか会社の事を私はよく知らないけれど、兎に角蒼さんはとても忙しく働いているお金持ちなのだという事だけは解った。


「涙花様、デザートはフルーツ系になさいますか?其れともスイーツ系を?」
「あ…スイーツ系で」
「かしこまりました」
「…」

私の世話をしてくれるこの朱里さんという人は、蒼さんの身近にいる部下であり護衛の人だと紹介された。

(若いのに…凄いなぁ)

美人ですらりとした長身に細身のパンツスーツ姿がよく似合っている。


「どうぞ」
「ありがとうございます──って、このタルト、お店のものですか?」
「いえ、料理同様わたくしが作りました」
「! 凄いですね、お店で売っているものみたいです」
「お褒め頂き大変嬉しいのですが、蒼様に仕える身としてはこれぐらい出来て当たり前なのです」
「…はぁ」

謙遜しているのだろうけれど、其の理由が凄くて言葉が続かなかった。

(蒼さんって…きっと私の知らない事がいっぱいあるんだろうな)

朱里さんお手製のスイーツを食べながらまたあれこれ考えてしまう私だった。







「…はぁ、しかし」

朝食後、私は別荘の中を散策しながらため息をついた。

外に出てはダメだと蒼さんから云われていた私は、暇な時間を別荘内を見て回る事で潰していた。

「広いなぁ…」

別荘というよりもお城みたいだ。

洋風の館といった感じの内装で、3階建てで横に広い感じの建物だった。


(迷子になりそう)


家の中で迷子になりそう──と思うぐらいの広さ。

これが蒼さんの持ち物だと知った時点でもう私の中でお金持ちに対する認識センサーは壊れていた。


ふと開かれた大きな窓から外を見た。

一面緑が生い茂る自然の風景が目に飛び込んで来た。

何となく田舎の情景に似ているかもと思った。

(此処にいつまでいればいいんだろう)

そもそもいっちゃんや薫さんはどうしているのかな。

私が突然いなくなって心配しているんじゃないのかな。

(でも…きっと蒼さんが色んな理由をつけて嘯(ウソブ)いていそう)

というか

いっちゃんは兎も角、薫さんは…

(私の事、心配していない…かな)

ポッと考えてしまった其の哀しい予想に胸がキリキリと痛んだ。


──其の時


ドンッ!



「えっ」


いきなり下の階で聞こえた大きな音に驚き、戸惑い震えた私だった。

蒼い樹が薫る
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