此処が蒼さんの別荘って事は…

(もしかして…!)

「あ、蒼さんが…この女性を使って私を」
「そうだ。おまえがオレ様の大事な処を蹴り上げたから手荒に攫ってやった」
「!」

(わ、忘れていた~~私、蒼さんの)

あの時の事を思い出してカァと赤くなった。

「すげぇよな、男の股間蹴り上げるなんてよぉ。おい、朱里、こいつ鍛えればものになるんじゃないのか?」
「──そうですね、素質はあるのかも知れません」
「おまえの部下にでもなれば最強の嫁誕生になるな、ははっ、面白れぇ」

『しゅり』と呼ばれた女性は蒼さんに跪いて直接目を合わせる事無く言葉を発した。

「あの…なんの話を、して」
「本来なら手打ちの処をオレの嫁になれば赦してやるという話だ」
「……は?」

(なんだか話が見えてこないんですけど)

「おまえはこれから此処に住むんだ」
「?!」
「とっくにフラれている癖にいつまでも中途半端に薫の傍にいるから忘れられないんだ。だからいっその事あの家から隔離した方がおまえのためにもなるって訳だ」
「な…何を」

蒼さんの言葉にドンドン心が冷えて行くのが解る。

頭の中を整理しようと言葉を濁していると蒼さんは私のいるベッドに乗って来て其のまま私に跨った。

「!」
「薫の事は忘れるんだ」
「なっ」
「おまえは此処でオレに愛されて、其の身も心もオレのものになればいい」
「そんなっ!」

滅茶苦茶な事を云われていると解っている。

心だって体だって目一杯拒否反応を起こしている。


だけど


「直ぐに忘れちまう」
「!」

首筋にグッと押し付けられた蒼さんの唇からチリッとした痛みが発生した。

(痛っ!な、何)

「おまえはオレのものだからな」
「…」

最後に低く呟いて蒼さんはベッドから下りた。

そして『しゅり』と呼ばれた女の人に何かを耳打ちして部屋を出て行った。


(何…何なの…これは)

あまりにも驚き過ぎてちゃんと状況が把握出来ていなかった。

そんな私の元に女性が近づいて来た。

「蒼様のご命令で涙花様をしばらくこの別荘からお出しする事は出来ません」
「…」
「身の回りのお世話はわたくし、松永朱里(マツナガシュリ)が致します。ご用があれば何なりとお申し付けください」
「…わた、しは」
「…」
「私は…蒼さんのものに…なるしか、ないんですか」
「蒼様は其れを望まれています」
「…」
「涙花様、差し出がましいとは思いますが云わせてください」
「え」
「蒼様に愛されるという事はとても幸せな事でございます」
「!」
「蒼様は態度も口調も良い──とは云い難いですが、好いた方にはとても大きな愛情を注ぎます。何もご心配には及びません」
「…そう、ですね」
「…」
「だけど其れは…蒼さんに…蒼さんの事を好きになった人に…相思相愛になった人に与えられる権利です」
「…」
「私には見当違いの権利です。だって…だって私はっ」
「…」

(私は蒼さんを愛していないのだから)

一方的な愛情を与えられても其れは私にとっては愛のある生活とはいえないのだ。


いくら薫さんと離れたって

いくら蒼さんと一緒にいたって

そんなに簡単に恋する気持ちというのはコロコロ変わるものじゃないと思った。



──結局いくら泣き叫んでお願いしても蒼さんの別荘から私が解放される事はなかったのだった


蒼い樹が薫る
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