「ただいま」
「…」

撮影を終え樹と戻ったマンション。

先にリビングに向かった樹を見ながら僕は直ぐに部屋の中に入った。

(まだルイカには顔を合わせられない)

酷い言葉で傷つけたかも知れないルイカには、いつか僕の事情を話さなくてはいけないのかも知れない。

全てを話した結果、ルイカが僕から離れて行っても其れは仕方がない事で。

(でもまだ…ルイカに去られても平気な気持ちになっていないから)

もう少し…

時間が欲しいと思った。




『おい、薫』

「え?」

ドンドンと部屋をノックされ、樹のただならぬ声色に僕はドアを開けた。

「どうしたの、いつ──」
「涙花がいない」
「え…あ、買い物に行ってるんじゃないの?」
「そうかと思ったんだけど、いつも持って行く財布がカウンターの籠の中に置いてあったしエコバッグも其のままになっている」
「…」
「其れに蒼さんに電話掛けてみたんだけど出なくて」
「!」

其の瞬間、凄く厭な予感がして僕は慌てて蒼さんの部屋に向かった。


「あ、か、薫!待て、蒼さんの部屋を開け──」

背後で樹が慌てているのは解っているけれど、どうしたって開けずにはいられない。


バンッ!


「!」


真っ暗な部屋に浮かぶのは何台もあるパソコンの液晶の明かり。

其の無数の画面には株取引の相場チャートや多数のSNS画面、ネットニュースや世界中に広がるありとあらゆるネットワークが網羅されている。

「ひゃあ~相変わらず凄いな、蒼さんの部屋。実際この部屋で世界と繋がってとんでもない金額を動かしているっていうんだから…化け物だよな」
「…いない」
「え?」
「蒼さんがいない」
「…本当だ。え?…ちょっと待って、そんな事ありえないよな」
「…」


ルイカがいない


蒼さんもいない


「! まさかっ」
「え?何、薫」
「蒼さんがルイカを連れ出した」
「はぁ?なんで涙花を」
「蒼さん、本気なんだ」
「何が」
「本気でルイカを…手に入れようとしている」
「えっ」
「だってそうじゃなきゃ蒼さんがこの部屋からいなくなるなんて事、考えられない」
「…た、確かに…あの蒼さん、だもんな」
「…ルイカ」

厭な予感は当たった。

あの蒼さんが本当に本気になればルイカをどうにかするなんてとても容易い事で──

(どうしよう…ルイカが…蒼さんに)

「おい、薫、おまえちょっと落ち着けよ。まだ蒼さんが涙花をどうにかしたって訳じゃ」
「本気だよ!蒼さんは本気だ」
「!」
「ルイカが…ルイカがっ」
「薫、おまえ…」


どうしよう


(どうしたらルイカを見つけられる?!)


こんなにグチャグチャな気持ちになったのは生まれて初めての事だった。

蒼い樹が薫る
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