ピピピピピピピッ


「ん…」

耳元で鳴り響く携帯のアラームを手探りで止めた。

(…はっ!)

一気に目が覚めてガバッと布団から起き上がった。

「…」

薄暗い視界に入るのは何もないガランとした空間。

──いや、何もない、というのは変か

6畳ほどの部屋にはとりあえずベッドと備え付けのクローゼット、小さなテーブルや収納家具がひとつ置かれているから生活する分には何も不自由がない部屋。

(なんだかホテルみたい)

しばらくボーッと部屋の中を見渡していたけれど、やがて私は徐に立ち上がり身支度を始めた。

(よし!)

心の中で気合いを入れて、私は部屋を後にした。





ジュー

中身が乏しい冷蔵庫の中から使えそうなものを探し出し、私は朝食の支度をしていた。

(今日は買い物に行って来なくっちゃ)

どう考えても昼食までは賄えないなと考えていると

「…おはよ」
「ひっ!」

真後ろから声がして驚いた。

「…そんなに驚かなくても」
「か、薫さん!おは、おはよう、ございます」

驚くなという方が無理だろう。

(いつも思うけど気配しなさ過ぎ、薫さんって)

バクバクと高鳴る心臓を押さえながら、私は辛うじて平静さを取り戻した。

「…眠れた?」
「はい、疲れていたからベッドに入ったらほんの3秒で意識が無くなりました」
「……リアルのびた」
「へ?」
「…」
「??」

薫さんが掌で口元を抑え、小刻みに震えていた。

(まさか…笑いを堪えている?)

昨日の今日で似たような仕草をされたら流石にどうしたのかって事が解る様になったみたいだ。

(本当何処が笑いのツボなんだろう)


「おはよう、涙花」
「あっ、いっちゃん」

薫さんから遅れる事数分、リビングにスーツ姿のいっちゃんがやって来た。

其のにこやかな笑顔は、私の横にいる薫さんを見つけると直ぐに険しいものになった。

「おい、薫。おまえなんで涙花の傍にいるんだ」
「なんでって…朝の挨拶しただけ」
「そんなに近寄らなくたって挨拶ぐらい出来るだろう」
「何作っているのかなって覗きついでに」

「…」

何故か起き抜け一番で剣呑な雰囲気が漂うふたり。

(なんだろう、いっちゃんと薫さんって仲、悪いのかな?)

新参者の私には解らない関係というのがあるのかも知れない。

でもとりあえず朝から諍いの声を聞きたくなかった私は雰囲気を変えるために話を振った。

「いっちゃん、今日もお仕事で外に行くの?」
「えっ?あ、あぁ。朝一でアポを取っている処があってさ、悪いけど出かける」
「気にしないで?お仕事、大変だけど頑張ってね」
「…涙花」

いくら社長だからといってもわずかな人数の会社ではいっちゃんのこなす仕事は沢山あるんだろうなと思った。

(本当は色々話したいし、行きたい処もあったんだけど)

心の中でそっとそう思った瞬間、いきなりバンッ!と大きな音が部屋中に響いた。

蒼い樹が薫る
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