「つまり私は…家政婦、として雇われたって事?」

いっちゃんの話を訊いて結論付けられたのはそういう事だった。

男の人が三人住むこの会社事務所兼住居の生活を支える家政婦になって欲しいと──

(そういう事…だったのか)

やっと今まで蒼さんや薫さんが云っていた『家政婦』の意味が解ったのだった。

「すまない!本当の事が云えなくて…申し訳ないと思っている」
「…」
「でも最後は涙花しか思いつかなかった。涙花は小さい時から共働きのおじさんやおばさんの代わりに家の事をやっていたから家事に関しては問題ないと思ったし、時期的に就職先を探しているのなら助けになるかもと思ったし、そして何より涙花は芸能関係という環境にいても浮ついたりしないと思っているから」
「…いっちゃん」

(大好きないっちゃんから此処まで云われたらもう…)

「…怒った?涙花」
「ううん、いっちゃんの事情はよく解ったよ」
「涙花…」
「私でお役に立つなら、是非家政婦さん、やらせて欲しいな」
「! ほ、本当か?!涙花」
「うん。自分が出来る事で誰かの助けになるなら…これだって立派な仕事だよね?」
「…涙花」

いっちゃんが本当に嬉しそうな顔をして喜んでくれている。

(私、いっちゃんの其の顏が大好きなんだよ)

事情はどうあれ、これからいっちゃんのために働く事が出来る喜びが私の中で湧き上がっていた。

そんな中

「…本当にいいの?ルイカ」
「え?」

突然薫さんが私の元に近寄って来て耳元で囁いた。

「男三人とひとつ屋根の下で暮らすなんて…ルイカって本当危機感ゼロだね」
「…」
「おい、薫、変な事を云うな!」
「…」

薫さんから云われた事の意味がよく解らなかった。

何がどう危機感ゼロだなんて云われるのかも解らない。

「涙花、安心しろ!俺が涙花を守ってやるから」
「いっちゃん?」
「涙花の部屋にだけ鍵をつけたから部屋にいる限りは大丈夫だ」
「…」
「俺は勿論だけど、蒼さんだって言葉は乱暴だけど本当はいい人で涙花を泣かせる事は絶対にしない」
「…はぁ」
「其れにおまえも涙花には指一本触れないって約束出来るよな!」

いっちゃんがキッと薫さんを睨んだ。

だけど薫さんは表情ひとつ変えずにやっぱり無機質に答える。

「…まぁね、今の処は何も感じないし」
「はぁ?今の処ってなんだ」
「一緒に住み始めたらどうなるか解らないでしょ。お互いに恋愛感情が発生したら其の時は触れてもいいって事なんでしょ?」
「! なっ」

(あぁ!そ、そういう事っ)

薫さんといっちゃんのやり取りでどういう事なのかやっと解った。

どうやら私は此処に住み込み家政婦になるという事で、つまりは同じ家で男の人三人と一緒に暮らす事になるのだ。

(つまりソッチ系に関しての危機感って事ですか!)

今まであまり縁のなかった分野の事で一瞬呆けてしまったけれど、其れは確かに危ない──という事になるのかなと思った。

だけど

(蒼さんはまず大丈夫よね)

何となくだけれど、あの人は田舎者の私に手を出すほど女の人に不自由していないと思った。

あくまでも家政婦としての私しか必要としていないのだという事が短い時間の中でも解った。

(其れに薫さんにしたって)

先刻のいっちゃんとのやり取りから判断すると、ちゃんと相手の気持ちを尊重してくれるタイプだと思った。

だからきっと私が厭がる事は無理強いしないだろうと。

(そしていっちゃんは…)

いっちゃんは勿論昔から知っている幼馴染みだ。

其れに…

(もし…いっちゃんからだったら私…)


一度は手放した恋心。

だけどこの状況になってからはみっともなくも再び私の胸の中に舞い戻って来た気がしたのだった。

蒼い樹が薫る
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