「いっちゃん、いっちゃん!逢いたかったよぉぉ」
「…涙花」

いっちゃんは「心配かけてごめんな」と云いながら私をギュッと抱きしめてくれた。

(あぁ…変わっていない、いっちゃん)

姿形は私が知っていた頃のものじゃなくなっていたけれど、でも雰囲気とか優しさとか…

そういうものは全然変わっていないと思った。

「…ちょっと、見苦しい」

「え?」

向かいの席から聞えた声に再会の感動に浸っていた気持ちはあっという間に現実に引き戻された。

「見苦しいって、薫」
「見苦しいでしょう、恋人でもないのにそんな必死のハグしたりして」
「ハ、ハグって」
「樹、いつもそういうのしないくせに。何、ルイカは特別なの?」
「! おまえ、涙花の事呼び捨てでっ」

「あ、あの、いっちゃん!」

私は険悪な雰囲気になりそうないっちゃんと薫さんの間に割って入った。

「涙花、おまえ薫に何もされなかったか?!」
「え、何もって?」
「よく知らない場所で安易に寝たら危ないだろう?!大丈夫か?」
「別に何も…」

そしてふと気が付いた。

(あっ、ソファの下にブランケットが)

いっちゃんに抱き付いた拍子に落ちたんだろうブランケットを拾って見つめた。

(ひょっとしてこれ、薫さんが)

ソファで眠ってしまった私に薫さんが掛けてくれたんだろうと思った。

そんな気持ちで薫さんを見ると

「…何」
「あの…ありがとうございます」

ブランケットを掲げて私はお礼を云った。

だけど薫さんは特に何も答えず、フイッとそっぽを向いてしまった。

(薫さんってよく解らない人だけど…優しいんだって事だけは解ったかも)

何故かそう考えると心の中が暖かくなった。

そんな様子を見ていただろういっちゃんは薫さんに対しての剣呑とした雰囲気はなくなり、いつもの柔和な顔に戻っていた。

「涙花、今日は迎えに行けなくてごめんな。急な仕事が入って電話を掛ける時間もなくて」
「気にしないで、薫さんがちゃんと連れて来てくれたから全然不安じゃなかったよ」
「…そうか」

少しだけ気まずい顔をしたいっちゃんは、私の頭をポンポンしながら徐々に笑顔になった。

「いっちゃん、私もう子どもじゃないんだよ?いつまでも頭ポンポンしないで」
「あ、悪い。つい癖で」
「…いっちゃんの中では私はいつまでも中学生のままなんだね」
「え、そんな事ない!涙花は大人になった!綺麗になった!」
「!」

私が呟いた言葉にいっちゃんは過剰に反応した。

其れを受けて私の胸はドキンと高鳴る。

(大人だって…綺麗だって…)

お世辞でも嬉しいなと思った。

自分ではよく解らないけれど、でも中学生の時よりは多少マシになっているかなと思っていたから。

(いっちゃんからそう云われて幸せだよ!)

私は今までの疲れが一気に吹き飛ぶような幸せの感情に浸ってた。


──だけどそんな幸せ気分を一気にぶち壊す様な現実をこれから数分後、突きつけられる事になるのだった

蒼い樹が薫る
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