「10分以内に食事を作れ!」と云われて無我夢中で作った。

予定の10分は少し過ぎてしまって、あの小さな女の子──もとい、男の子に怒鳴られてしまったけれど。

「…まぁまぁ、だな」
「へ?」
「なんだよ」
「あ…いえ、ありがとうございます」
「まぁまぁだって云ってんだ。調子に乗るんじゃねぇぞ」
「…」

冷蔵庫の中の残り物で作ったオムライスとコンソメスープをガツガツ食べながら其の人は云った。

(なんだか…段々最初の凶暴さが治まって来ているみたい?)

相変わらず口調は汚いけれど、最初に逢った時みたいな狂気じみた迫力はなくなっているように思えた。

「蒼さん、空腹が満たされると凶暴じゃなくなる」
「あおいさん?」

(名前まで女の子っぽい)

「薫!てめぇ、何勝手にオレの名前教えてんだよ!」
「だっていいんでしょ?彼女で」
「…」
「ご飯、美味しいんでしょう?」
「だからまぁまぁだって云ってんだろ」
「蒼さんのまぁまぁって合格点でしょう?」
「……チッ」

「あ」

蒼さんと呼ばれた男の子はあっという間に食事を終えると席を立ち、そそくさと別の部屋に入って行ってしまった。

其れを茫然と見ていると

「…ねぇ、ルイカ。僕もご飯食べていい?」
「あ、はい、勿論ですよ」

私は薫さんの前にオムライスとスープを置いた。

「いただきます」と云って食べ始めた薫さんは、蒼さんとは違ってひと口を飲み込むのがとても長かった。

(わぁ…すっごく咀嚼している)

其の様子をジッと見ているとなんだか嬉しくなる。

「? なんで笑っているの」
「えっ」

薫さんが少し怪訝そうな表情で私を見て云った。

「人が物を食べているのがそんなに可笑しい?」
「あ、違いますよ!なんていうか…すごく大切そうに食べてもらっているなって思ったら嬉しくなって」
「…」
「作った方からしたら料理を味わってもらっているなって気持ちになって思わず顔がニヤけてしまうんです」
「…そういうものなの?」
「そういうものなんです。だから可笑しくて笑っているんじゃありません」
「…あっそ」

其れっきり薫さんは黙ってしまい、また黙々と料理を食べ始めた。

其の仕草が何だかとても優雅で、私は厭きもせずにずっと見てしまっていたのだった。






(完食するのに一時間って…凄いなぁ)

ふたりが食べ終わった食器を洗いながらそんな事を考えていた。

結局薫さんはあの味わいながら食べるという食事を最後まで通した。

いつもあんなに食事に時間をかけるのだろうか、と考えていたら

(あっ、もしかして)

此処に来る前に入ったお店で薫さんが何も食べなかったのは、あの食事時間の長さが関係していたんじゃないのかと思った。

(そうかも知れない…いや、多分そうだよね)

色んな事の合点がいって、徐々に頭の中がスッキリして来た。

──だけど

「おい!」
「!」

急に間近で大きな声がして驚いた。

慌てて振り返ると其処にはあおいさんと呼ばれていた男の子が立っていた。

「風呂掃除」
「…は?」
「サッサと風呂掃除しろよ。湯が張れないだろう」
「…あの…もしかして」

私はリビングのソファに座っている薫さんに目配せをすると

「…バスルームもルイカの管理下になるよ」
「?!」

事無げにそう云われ、もう何が何だか解らなくなる。

(先刻からどーなっているの?!)

いきなり食事を作らされたり、お風呂掃除を強要されたり…

(私、いっちゃんの会社の社員になるんだよね?!なんでこんな)

初めて逢った時、あおいさんから云われた『家政婦』という言葉が引っかかる。

(まさか…)

単なる性質(タチ)の悪い冗談だと思いたい。

(もう!いっちゃん、早く帰って来てぇぇぇぇぇー!!)

全ての事はいっちゃんの口から訊かないと解決しないと思った私だった。

蒼い樹が薫る
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