「遅いって…まだ19時前」
「オレにとっては充分遅い時間なんだよ!」

「…」

恐る恐る部屋の奥へと進むと、其処には薫さんより小柄な女の子が顔に青筋を立てて怒鳴っていた。

(えっ!お、女の子?!)

声だけ聞いたらまるっきり男なのに、其の声の主は何処からどう見てもボーイッシュな女の子だった。

「おまえは迎えに行くというお使いすら出来ねぇのか、ゴラァ!」
「出来たよ──ほら、これ」
「!」

いきなり薫さんに両肩を掴まれ、怒鳴っている女の子の前に差し出された。

「!」
「あ、あの…っ」

(わぁっ、可愛い顔しているなぁ)

声だけ聞いていたらどんな屈強な野蛮人だろうと思ったけれど、其の女の子は線が細く華奢な可愛い子だった。

──だけど

(ん?この子……喉仏が…ある?)

まさか──という疑念が湧いた。

「おまえが新しい家政婦か」
「へ?」


…今



(なんと?)


「随分なガキだけど家事なんて出来んのかぁ?!」
「…」
「いいか、オレ様にロクなもん喰わせんじゃねぇぞ!」
「…」
「解ったらとっとと飯を作りやがれ!」
「…」
「あ、葱は入れるなよ。覚えておけ!」
「…」

(…この子は先刻から何を云っているのか)

まくし立てる様に云われた事が頭の中に定着しない。

ただひとつ解った事といえば

(この子、男の子なの?!)

間近で見た喉仏といい、口調といい、何処からどう見ても男の子にしか見えなくなっていた。

しばらくボーッとしていると、耳元で聞こえた「ルイカ」という声で意識が戻った。

「はっ!」
「ルイカ、早速で悪いけどご飯、作ってもらえる?」
「か、薫さん?」
「あの人、お腹が減っていると凶暴度増すから」
「えーっと…あの」

薫さんは戸惑っている私の手を取って、其のままキッチンに連れて来た。

「冷蔵庫の中のものはなんでも使っていいから。というか今日からルイカが管理するんだから好きにして」
「管理?って一体…」

「早く飯にしろ!10分以内に作らねぇと頭カチ割んぞ!」

「ひっ!」

遠くからの叫び声に驚き、私は慌てて冷蔵庫の中を物色した。

(た、玉子と…ソーセージと…野菜は)

見かけが立派な冷蔵庫なのに、中には大した食材が入っておらず眩暈がした。

近くに置いてあったスイッチの切れた炊飯器の中にはご飯が冷たくなって残っていた。

(これは…もうアレしかないっ)

私は持っていた鞄を置き、髪の毛を縛り腕まくりをした。

ザッと手を洗って、玉ねぎを刻み始めた。

トントントンッと小気味いい音を出して刻んでいると、ふと視線を感じた。

(ん?)

私のすぐ真後ろに薫さんが立っていて私の手元を覗き込んでいた。

「…あの、薫さん?」
「何」
「出来たら呼びますから…ちょっと離れてもらっていいですか?」
「見ていたらダメ?」
「え?いえ…少し離れて見る分には構いませんけど…面白くないですよ?」
「面白いか面白くないかは僕が決める」
「はぁ…そうですね」

また訳が解らない事を云い始めるのかな、と思いつつも、今はそんな薫さんに構ってはいられない状況だったので其のまま作業を続けた私だった。

蒼い樹が薫る
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